AIは広告制作をどう変えた? 映像表現に一石を投じた、「極AIお台場スタジオ」

私たちが目にするインターネット広告ですが、最近では生成AIによる画像や動画を駆使したものが急増。ビジュアル表現のみならず、クリエイティブの企画やターゲティングにもAIが活用されはじめています。 そうしたなか、国内トップシェアのインターネット広告事業を展開し、新しい未来のテレビ「ABEMA」の運営やゲーム事業などを手掛けるサイバーエージェントは、広告効果の最大化に特化したクリエイティブ制作スタジオ「極(きわみ)AIお台場スタジオ」を2023年9月にオープン。広告クリエイティブの企画・制作を行うグループ会社、株式会社Cyber AI Productions(略称:CAI)と連携し、より効果的な広告クリエイティブ制作を目指しています。本記事では、そのスタジオの全貌を覗いていきましょう。

効果予測から素材制作まで、AIで進化する広告クリエイティブの最前線

東京・お台場。AIをはじめとする最新の機材と技術が集結する「極AIお台場スタジオ」が完成したのは、2023年9月のこと。同スタジオの最大の特徴は、「極予測AI」(※1)を活用し、革新的な制作プロセスで広告効果を追求していることです。また、生成AIを活用して大量のLED背景画像を制作し、広告効果が高いと予測される素材を実前に選定。キッチンやリビング、オフィスなど、配信ターゲットに合わせた多様なシチュエーション撮影の効率化を実現します。

また、撮影はもちろん、ナレーション収録や編集まで、クリエイティブに関わる作業すべてを行うことができる環境を整え、高品質な広告クリエイティブを、より効率的に制作できるといいます。

スタジオを案内してくれたCyber AI ProductionsのProducer・高橋慎士氏は、「近年、企業のマーケティング活動ではインターネット広告の活用が欠かせないものになっていますが、サイバーエージェントが主に扱う運用型広告で効果を出し続けるためには、ターゲットに合わせた多種多様かつ大量のクリエイティブを短期間で制作していかなければなりません。極AIお台場スタジオでは、より効果的で高品質な広告クリエイティブを納品することで、これまで以上に幅広いニーズに応えていきたいと思っています」と語ります。

巨大LEDウォールに生成AIやCGを駆使した映像を投影。どんな世界観もリアルに再現

最初に案内してもらったのは、「LED STUDIO」と呼ばれるエリア。横幅15mにも及ぶシリンドリカル型LEDウォール(横15m、高さ3.4m)や、AR表現が可能な3面構成(床面、背面、左側面)のxRスタジオ、可動式高精細のLEDウォールを常設。制作物に応じたさまざまなバリエーションの撮影を可能にする、「極AIお台場スタジオ」の目玉です。

LEDウォールに映し出されるのは、生成AIやCGを駆使して制作された、多種多様な背景映像。例えば、キッチンやホテルのエントランス、または仮想空間の3DCGなどがリアルに投影され、映像の前に演者が立つと、まるで現実と見間違うほどの自然な撮影環境がスタジオ内部に完成します。

こうした技術を活用することで、ロケ地への移動時間の短縮、天気や季節などの制約からの解放、現実では表現不可能なバーチャル空間での撮影が可能になるなど、より自由な撮影を可能に。試写してもらった映像を観ていると、想像以上にリアルであることに驚かされます。

また、撮影用のモーションコントロールカメラ「Bolt Jr+」が投影された3DCG映像と完ぺきに同期しており、カメラが動けば映像も動いて奥行きを表現。照明も同様にコントロールされているため、臨場感あふれる映像になるのだそう。

従来は「グリーンバック」と呼ばれる緑一色の背景で人物を撮影した後に背景を合成するのに対し、「極AIお台場スタジオ」の場合、例えるならば背景やライティングをリアルタイムで合成しながら撮影するイメージ。xR スタジオはAR機能も搭載しているため、人物の手前にオブジェクトを置くことも可能で、LEDウォールとカメラ内での合成技術を駆使することで、どんな世界も再現することが可能に。これによって、映像制作のスピードが飛躍的にアップしているのです。

4Dスキャンやモーションキャプチャなど、最先端設備も完備

スタジオの奥へと入っていくと、映像を編集するための編集室やナレーションなどの音の収録室など、クリエイティブの制作に必要な機能がずらり。「映像を撮ったその日に編集し、ナレーションを当てて動画を完成。そのままクライアントに入稿、という、これまでには考えられないスピードでの広告制作が可能になっています」と高橋氏。

その傍らには、何やらたくさんのカメラが連なる巨大な装置が。顔から首回りの映像制作に用いられる4Dスキャンシステムです。

「生成AIがアウトプットしてくる動画では、人間の口の動きが英語の動きになっているものが多いです。そこに日本語を当てると不自然になるので、日本語発話の精度向上に向けた動画を撮ったりすることに活用しています。ちなみに、4Dスキャンは恐ろしいデータ量のため横にサーバを置いているのですが、稼働音もなかなかです(笑)/高橋氏」

同エリアには3Dスキャンとモーションキャプチャのシステムも鎮座。約160台のカメラでボディとフェイスを1度に撮影することができるそうで、装置は国内最大規模。顔や身体、手の動きの特徴を捉えるセンサーも充実しています。

「サイバーエージェントでは、過去にも著名人のデジタルツインを制作・キャスティングするサービスなども行ってきましたが、その精度をさらに上げて、効果実績から自動生成するAIタレントの制作や、さまざまな言語の発話に対応していくことなど、活用の道を模索しています/高橋」

巨大なLEDウォールを駆使した撮影と、広告効果を最大限に向上させるAIの活用。そして、4Dスキャンなどによる未来の技術の模索。広告クリエイティブの最先端が詰め込まれた「極AIお台場スタジオ」は、まさに極みの名に恥じない圧巻のスタジオでした。

後編では、同スタジオだからこそできるクリエイティブ表現の未来と、AIを活用した独自の広告戦略についてお話を伺います。

  • ※1「極予測AI」について:サイバーエージェントが開発した、「効果予測AI」を用いて広告効果の高いクリエイティブを予測しながら制作するクリエイティブ制作支援システム

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