先日、大阪で開催されたAIのリアルイベント「AI博覧会 Osaka 2025」。前編では、アクセルおよびaxの展示内容と、主催者である株式会社アイスマイリー代表取締役・板羽晃司氏に、AI博覧会が目指すイベントの姿についてお話を伺いました。後編では、イベントの目玉でもあるカンファレンスの様子をフィーチャー。株式会社GAUSSの宇都宮綱紀社長と、ax株式会社の代表取締役社長・寺田健彦が登壇し、「工場や現場向けの最新エッジAI事情」について語りました。

【会社詳細】
株式会社GAUSS
危険エリアの可視化や保護具のチェック、重機周辺の安全確認など、現場の安全管理を支援するAIカメラ「GAUDi EYE」をはじめ、建設・製造業界特有の課題をAIで解決に導くソリューションを展開。そのほか、SaaSで使えるAIプラットフォームや競馬予測AIなども手掛ける。
ax株式会社
“誰でも簡単にAIを実用化できる世界”を目指し、AIアプリの開発から導入支援までを行う。エッジ(端末)へのAI実装を簡単にするAIフレームワーク「ailia SDK」や、オフラインで動作するセキュアなDXアプリ「ailia DX Insight」などを提供する。
現場の最前線を見守る「GAUDi EYE」で、人手不足改善&事故ゼロを目指す。
——GAUSS・宇都宮社長の経歴を教えてください。
宇都宮綱紀社長(以下、宇都宮社長):高校卒業後から約7年間、建築業(鉄筋工)に従事していたのですが、2006年にライブドアショックをテレビで見て、プロ野球チームやテレビ局を買えるんだなんていう夢を見てIT業界に興味を持ちました。その後、独学でプログラミングを学びまして富⼠通株式会社に転職をします。元々ずっと起業をしたかったので、その準備も兼ねて社内エンジニアコンテストに出ていたところ、2連覇させていただいたり、社外のハッカソンでも受賞していただいたりという経験を積みまして、2017年にGAUSSを起業してします。
——現在はどのようなAIサービスを展開していますか?
宇都宮:GAUSSでは建設業界や製造業向けに、AI技術を活用した安全管理ソリューションを開発しています。現場での労災の発生率って、実は30年ほど前からほとんど変わっていないんです。少子化が進む昨今、現場に人がいなくなっているのに、労災でさらに人が減っていく。厚生労働省からも労働災害防止の対策をするようお達しが出ているような状況です。これをAIによって改善していこうということで展開しているのが、AIカメラ「GUDi EYE」や「GAUDi Hab」などのサービスです。
——具体的には、どのような機能があるのでしょうか。
宇都宮:画像認識によって、危険エリアに人が立ち入らないか、ヘルメットなどの保護具をしっかり装着しているか、重機の側に人がいないかなど、現場の安全に関わるさまざまなチェックを行います。危険を察知すると音や光で知らせて、管理者には通知を出します。不安全行動を可視化することで、管理方法の改善や作業内容自体を見直すことができ、作業現場の安全性を向上させることができます。

——axとのコラボレーションによって実現しているそうですが、axはどういったかたちで関わっているのでしょうか。
寺田健彦(以下、寺田):「ailia SDK」というAI推論フレームワークを提供しています。実は「GUDi EYE」はエッジで動いていまして、カメラで撮影した映像をその場でリアルタイムにAI処理しています。サービスの性質上、高速性が求められるというところで、エッジで軽快に動く「ailia SDK」で開発のお手伝いをさせていただいているという経緯です。
——「GUDi EYE」「GAUDi Hab」について、詳しく教えてください。
宇都宮氏:建設現場に設置するカメラが「GUDi EYE」、それを管理するクラウドプラットホームが「GAUDi Hab」です。こうしたAIサービスを建設現場に提供していく際、いちばんの課題は建設現場によって風景がまったく異なるため、現場が変わるとAIの精度が落ちるということ。私たちのサービスでは、「ailia SDK」を駆使することで、設置後にも持続的な学習をし、AIの精度を現場ごとに最適化していくことができる体制を構築しています。
また、導入コストが低いというのも大きなメリットです。基本的に現場にAIを入れるとなると初期投資で1000万円規模の予算がかかり、別の現場に移設するときにも追加の学習費用で300〜500万円かかるというのが相場です。ここがなかなか普及しない理由でもあるのですが、先ほどご説明した通り、「GUDi EYE」ではAIが持続的に学習して精度を高めるため、開発は不要。初期費用を抑えつつ、現場ごとのAIの調整にもコストが掛からないため、短期間・低コストでの導入が可能です。また、AIの精度は常にクラウドで監視し、精度が落ちている場合には通知を行い、お客様自身で追加学習させられるプラットフォームもご用意しています。
——具体的な機能や特性をご説明いただけますか。
宇都宮氏:まずは現場に設置されているカメラに、現場のお困りごとに対応したAIをインストールしていただきます。基本的には、これだけで危険エリア内でヘルメットをしていない人がいたらパトランプを回す、さらに動画を切り出してメールで管理者に送る、といったことが簡単にできるようになっています。撮影した映像はバックグラウンドで保存され、それをもとに追加で学習させていくことも可能です。画像の枚数にして100枚程度の学習で、AIが自動で判別してくれるようになります。
最初から学習済みのAIモデルも搭載していますが、安全装備の利用状況の検知、クレーンの旋回範囲の立ち入り検知、危険エリア指定など、複数の機能から必要なものを選んで業務に役立てていただくこともできます。

——寺田さんから見て、「GUDi EYE」「GAUDi Hab」にはどういった良さがあると思いますか?
寺田:AIカメラを使って何かを監視したりアラートを出すという仕組みが完成されていて、すべてを網羅しているんじゃないかというほど充実した内容に、初めて見たときはすごく驚かされました。さすが現場を知っているだけありますよね。特に素晴らしいのは、現場の写真を使ってお客様が自ら最適化をしていくことができる仕組みがあること。先ほどお話しにもあったように、コスト面から見てもお客様にとっては心強いのではないかなという風に感じています。
GAUSSさんのようなアイデアと仕組みによって、初期導入費用を下げ、より簡単に皆さんがAIを使っていただける環境を広げていくことのお手伝いができるのは、とてもうれしいことです。また、別の業界にも横展開していくこともできるんじゃないかと感じています・ぜひ今後とも一緒に連携させていただきたいですね。
——最後に、おふたりが考える今後の構想を教えてください。
宇都宮氏:建設や製造業向けの機能をもっと強化していきたいと考えています。具体的には、安全に関することだけではなく、進捗管理など現場監督の目になるようなサービスです。私自身が建設業界のノウハウがありますので、現場の状況を詳細に見ていきながら、生成AIなどを組み込んで新たな機能を生み出せないかと思っています。もうひとつは、先ほど寺田さんも仰っていたように、他の業界への横展開です。このプラットフォームをもっと拡充して、さまざまなお客様に使っていただけるような環境を広げていきたいと思っています。
寺田:我々は現在、AIのフレームワークを幅広いお客様にご利用いただいておりますが、GAUSSさんが建設業界に深く関わっておられるように、もっと現場に近づいてAIを深掘りしていくことで、新しいソリューションを生み出していけるのではないかと考えています。
例えば、「ailia DX Enterprise」という商品があります。これは「ailia DX Insight」というオフィス業務を効率化するAIツールの機能を社内サーバーに構築し、ブラウザーから使うことができるようにしたものです。お客様の個人情報などセキュリティの厳しい情報にも外から、しかも複数のPCからアクセスできることで、現場の仕事効率化につながります。こうした現場に寄り添ったソリューションを、この先も展開していきたいです。
GAUSSとaxの協業によって、AI技術を活用した現場の安全管理が新たなステージへと進化しつつあります。今回の対談を通じて、その可能性の大きさが明確になったのではないでしょうか。AIを誰でも使えるようにする、導入の障壁を下げるために日々邁進する。そんな両社のソリューションが建設業界のみならず、多様な分野で新たな価値を生み出していってくれるはずです。