生成AIがさまざまな企業で活用されはじめている昨今。単純な業務効率化のみならず、マーケティングや新規アイデアの創出など、活用の幅はどんどん広がっています。 総合エンタテインメント企業、セガサミーホールディングスもまた、玩具のデザイン案作成やアンケートの分析業務に生成AI(人工知能)の活用を模索中。 生成AI環境を構築し、グループ会社のセガ フェイブと共同で実証実験を実施しているそうです。 そこで今回は、セガ フェイブがAI DXによってどんなことを実現しているのか、AIを使った玩具開発に対する思いやAI時代の玩具の未来について、お話を伺いました。
玩具の企画プロセスに生成AIを導入。業務時間の短縮に貢献
——玩具開発にAIを導入することになったきっかけを教えてください。
東方嘉基氏(以降、東方氏):もともとセガサミーホールディングスでは、割と早い頃からAIの導入を進めていまして、2023年8月には独自で開発した生成AIの実行環境を6000名を超えるグループ従業員に展開し、10月には、社内情報を参照する検索AI環境を構築して、業務効率の向上に努めています。今後は玩具の開発にも取り入れていきたいよね、という声も社内からあがっており、グループ会社のひとつであるセガ フェイブとニーズがマッチしたかたちです。
——もともと社内でAI導入のニーズが高かったのでしょうか?
東方氏:当初から導入の声が多かったというよりも、効率化の手段としてAIが候補に挙がり、一気に社内で広まったかたちです。私たちはエンタテインメントの会社なので、クリエイティブにもっと時間を使いたいのに、そうじゃない部分に時間とマンパワーを裂いてしまっているというのがこれまでの大きな課題でした。
特にアンケートの分析には結構な時間が掛かっていて、社員の悩みとしても大きかったと思います。アンケートの分析だけでも外注に出そうかという話も出ていたのですが、そんなときにAIでできないかという話が持ち上がったかたちです。まだAIは出はじめで、何ができるのかとかも理解しきれていない部分がありましたが、まずは試験的にひとつの部署で導入してみようということで実証実験からスタートしました。
——その実証実験では「ドリームスイッチ」という動く絵本プロジェクターを題材に、デザイン案の作成とアンケート分析に生成AIを活用されているとのことですが、詳しく教えてください。
東方氏:「ドリームスイッチ」は寝室に置いて天井に絵本を映し出すというもので、寝る前の親子の時間を変えたいという親御さんのニーズを掴んだヒット商品です。今回新モデルを考案するにあたり、使い勝手や価格、安全性などを鑑みて、どういうデザインにするかを企画担当者がデザイナーを交え、試行錯誤していました。
開発までの具体的な工程としては、まず製品のアイデア出しを行い、いくつかの案に絞ってからデザイナーに発注し、具体的なデザインに起こしてもらうという流れです。ここに生成AIを活用することで、デザイン案を作るのに数日かかっていたものが、300案以上のデザインを1時間ほどで上げられるようになりました。
何よりもメリットを感じたのは、時間的なことよりも、人間が考えていたときには出てこなかったようなアイデアが出てくるようになったことです。実現できるかはさておき、AIの力で表現の幅を広げられるというのは、導入効果として、とても大きい部分ですね。また、デザイン案自体もより比較しやすいものになりました。人力では時間的な制約もあり平面のデッサンを作るのが精一杯でも、AIの力を借りることで本物のような立体的なビジュアルと質感のあるイメージもすぐに生成することができるようになっています。
そして、冒頭にご説明したアンケート分析の部分でも、やはりAIを導入したことの効果効能は社内に大きく現れています。特に、苦労していた自由回答の欄の分析が優秀でした。これまでチェック項目の集計は自動化できても、自由回答に書かれている内容の要約は難しかったんですね。叱咤激励なのか、クレームなのか、喜んでいる声なのか、というのは、人間でないと読み取れないからです。それがAIを駆使して分析できるようになったことで、AIに対してデータを投げるだけで、消費者が何を褒めてくれているのか、評価の良し悪しなども色付けして分かりやすいグラフにしてまとめてくれるようになりました。人によるバイアスが排除できることも大きなメリットでしたね。感覚的には80%くらいのアンケート分析業務をAIが担ってくれています。
——80%というと、かなり改善を実感できたのではないですか?
東方氏:そうですね。消費者の声が一目瞭然になって、何をどこに生かしたらいいのかも分かりやすくなりましたし、それに掛けていた時間もかなり短縮されたので、「この意見をどう反映していこうか」というクリエイティブな議論により時間を使うことができるようになりました。AIの導入効果としては、この部分がいちばん大きいと感じています。
——AIが出してくるアイデアやデザインの案は、流石にそのまま100%使えるものではないと思いますが、この辺りはどう捉えていらっしゃいますか?
東方氏:おっしゃる通りで、人の手でブラッシュアップする必要はありますし、AIに全てを任せられるということではありません。「優秀なデザイナーがアシスタントについたような感覚」と、企画の担当者は話しています。
——AIの導入にあたり、従業員側が使いこなせるかも大きな課題ですが、その点はいかがでしたか?
東方氏:確かに、プロンプトの作成は検索サイトを使う感覚とは違いますから、慣れるまで難しい部分です。今回の実証実験に関しては、基本的には担当者が試行錯誤をしながら何度もやり直し、改善していったかたちですが、そこでは社内のIT担当者のサポートも不可欠でした。
具体的にはプロンプトが良くなかったのか、それとも事前にAIに与える情報が良くなかったのか、こうした前提の部分ですね。ここを間違えると試行錯誤しても上手くいかないままなので、社内の担当部署との連携は欠かせないポイントだと感じています。
今後、さらにAIを社内に広げていくにあたり、今回の実証実験で得られた経験や失敗例も横展開して、スムーズに使い出せるようにしていきたいと思います。
想像を超えるアイデアの創出をAIに期待したい
——今後、AIを製品開発にどのように生かしていくか、具体的なお考えはありますか?
東方氏:やはりいちばんは、社内の他の玩具ブランドにも生成AIを導入することで業務を短縮し、クリエイティブに時間を費やすことができるようにしていくことです。また、デザインやアンケート分析以外にも、AIに任せられる業務はまだまだあると思うので、出来ることを少しずつ増やしていくというのが進めていくべきところかなと思っています。
また、セガ フェイブ Toysカンパニーでは会社のビジョンに「Create Wow! And Smile!(世界の人々に驚きと笑顔を!)」を掲げており、AIは今後、このビジョンを実現していくための重要な技術だと思っています。具体的にはAIを搭載した玩具など、業務以外にもAIを活用していくことを考えています。セガでは1980年代に「セガAIコンピューター」という知育コンピューターを発売していたことがありまして、実はAI搭載の玩具というのは、昔から社内でたびたび話題になることなんです。
子どもの月齢に合わせた知能レベルのターゲッティングや、どこまでの機能をAIと呼んでいいのか、のようなリアルな問題もあったりして、実際にどのような驚きや笑顔を生み出せるかというのはまだ企画チームのメンバーで検証を重ねている段階ですが、ぜひ期待していただきたいです。
——エンタテインメントにAIを入れ込んでいくというのは、難しいことなのですね。
東方氏:個人的な意見ですが、おそらくAIだけではエンタテインメントってできないと思っています。使う人との化学反応によって、驚きや感動っていうのが生まれていくものだと思っているので、必要なのは、AIに何ができるかということをまずは人間がもっと知ることじゃないでしょうか。なので、もう少し時間は掛かるんじゃないかなと思います。
——遠くない未来、玩具にもAIが搭載されれば、子どもが早い段階からAIに触れることにもなります。そうなったときに注意すべきことなどはありますか?
東方氏:お子様の環境や親御さんのニーズにも関わってくるのですが、インターネットに繋がることで何か問題が起こるんじゃないかということを危惧されている方は、すでにある程度いらっしゃいます。だからなのか、ネットに繋がらないスマホ型の玩具とかはある程度の年齢には受け入れられたりするんですね。
そのため、親御さんに安心してお子さまに使っていただける方法というのも、並行して考えていかなければいけません。重ねてになりますが、やはりAIというものをどう調理するかというのが、人間に問われているところかなと思います。
——子どもたちの未来に対して、AIにどんなことを期待されますか?
東方氏:「Create Wow! And Smile!」を実現するのは、人びとの想像を超えたときだと思います。そのためにも、我々作り手側のイマジネーションの幅を広げる手助けを、AIが担ってくれるといいですよね。そう遠くない未来、“AIネイティブ”と呼ばれるような子どもたちが生まれてくる時代が来るわけですから、そんな子どもたちの想像も超えていけるようなエンタテインメントをこれからも模索していきたいと思っています。
株式会社セガ フェイブ Toysカンパニー
メディア部広報 東方嘉基 氏
米国留学を経て、新卒で大手印刷会社に入社後、テーマパークやスタートアップ企業などを経てセガ フェイブに入社。印刷会社ではパッケージや販促物からイベント・デジタルまで幅広いプロモーションを手掛け、テーマパークではハロウィーンや人気映画作品をテーマとしたイベント集客をはじめ、V字回復企業としてのブランディングPRに貢献。スタートアップ企業ではPR部門の立ち上げやSNS運用に尽力。現在は玩具を中心としたエンタテインメントを手掛けるセガ フェイブ Toysカンパニーにて、マーケティングからプロモーション、そして広報を含むコミュニケーション戦略策定、戦術実行を指揮する。