RoboPathが描く、日本の働く現場とロボティクスインフラ

ホテル・病院・倉庫。人手不足が常態化する現場で活躍をみせるのが、共通ベースに上部ユニットを載せ替えるRoboPath株式会社のサービスロボット「UP」。従来のように単一のタスクをこなすロボットではなく、配膳、配送、清掃、巡回といった業務を一台で担うだけでなく、AIで動線最適化や、自動タスク化の視野も見据えています。ローンチから約1年でホテルや病院への導入が進むこの多機能なロボットは、現場の風景をどう変えるのか、そして今後どう進化していくのか。同社ソリューションセールス部門執行役員・姫島 渉氏に伺いました。

1台で多機能を実現するサービスロボット「UP」とは

——はじめに、RoboPathの事業内容について教えてください。

姫島 渉氏(以下、姫島氏):「当社は業務用のサービスロボットを展開する企業です。役割としては、ホテルでのルームサービス配送や配膳、清掃、工場での搬送・牽引をはじめ、最近は警備ロボットとしての見回りなどが主流です。一台で何役もこなせる当社のロボットを活躍させることで、さまざまな現場で起こる人手不足の解消を目指しています。

背景として、現在の日本では人口減少が進み、“今いる人で回す”という働き方が常態化している実情があります。そこで、AIと連携したロボティクスを駆使して業務を置き換え、補完し、人びとを支える解決策を提供できるのではないかと考えたのが、この事業の出発点でした。

体制としては、ロボットの企画は自社で担い、製造はロボティクス先進国の中国のメーカーへ委託。日本向けのローカライズを施して提供しております。会社の登記は2024年6月末で、実機の導入は同年末ごろから本格化しました」

——主力製品の「UP(アップ)」とは、どのようなロボットでしょうか。

姫島氏:「『UP』はセンサーやモーター、バッテリーが詰まったコアロボットです。タイヤのを装着した四角い本体に、用途に応じて上部のユニットを載せ替えるという構造が特徴です。ロッカー型ならアメニティや検体の無人配送を、棚型なら配膳や回収を、清掃ユニットなら床の自動清掃、見回りユニットなら夜間巡回や簡易監視など。このように、1台で多くの役割をスイッチできるのがコアアイデアとなっています。

単機能ロボの場合、時間帯によって非稼働のスキマ時間が出やすいのですが、『UP』の場合、昼は対顧客で配膳や配送、夜はバックヤードで見回りや回収を行うといったように、シフトをまたいで活躍できます。ホテルなら体験価値の向上と裏方の省人化を同時に狙えますし、病院や倉庫でもロボットが運んでくれることで、人間はほかの業務に集中できるようになります」

高い拡張性が、より良い未来を作る

——マルチパーパス設計の「UP」ですが、ユニットや筐体のバリエーションを拡充する予定はありますか?

姫島氏:「現状はホテルや倉庫などで活躍できる上部ユニットを中心に展開していますが、今後はより多様な業種に向けてラインアップを広げていく予定です。

現在、標準ユニットは当社から提供していますが、お客様の希望に合わせて独自のカスタムユニットを作ることも可能で、その場合、上部機構に合わせて当社側のセンサー構成やサイジングを最適化して納品することもできます。日本はスペース制約が大きく、工場やホテルでも『通路が狭くて配膳ロボが通れない』といったケースが少なくありませんので、小型化・大型化を含め、オペレーションをユーザーに合わせにいけるんです」

——日本の労働環境において、各ユーザーに合わせた調整もされているのですね。

姫島氏:「日本で展開する以上、お客様それぞれのご要望に寄り添えればと思っています。その点でいえば、エレベーターとの連携も日本の労働環境にはとてもフィットしていると思います。エレベーターに対応したロボ自体は他にもありますが、『UP』は多層階を前提に自動乗降まで含めて運用を磨いてきた自負があります」

後付けモジュールで、どの物件でも自動乗降を実現

——エレベーター連携はどのように行っているのでしょうか。

姫島氏:「基本的には、既設エレベーターに小型モジュールを後付けする方式です。カゴ上や天井付近に約30cm角のモジュールを取り付け、UWB等のセンサーで位置・距離、高さなどの情報をやり取りして、ロボット側が自分の位置と停止階を正確に把握します。

リレー方式でボタン裏の配線に直接アクセスできるため、エレベーターの信号を制御してロボットの自動乗降を実現できますし、既存設備を大きくいじらずに設置できるのも魅力です」

——エレベーターのメーカーを問わずモジュールの設置ができるのでしょうか。

姫島氏:「基本的にはすべてのエレベーターにつけることができますが、実務上はメーカーと保守会社の体制で可否が分かれる場合があります。例えばメーカー直系の保守だと、可・不可の判断や手続きが厳密になることがあるため、物件ごとの個別対応になることも。

当社のエレベーター連携技術は大別してふたつあり、アナログ連携とクラウド・API連携の2パターンをご用意しています。アナログ方式を採用するRoboPathのエレベーター連携は、モジュールを取り付けてエレベーターに直接アプローチできるので安価に運用が可能です」

——メーカー純正やサードパーティの選択肢は、どう使い分けていますか?

姫島氏:「現場では、当社モジュール、メーカー純正ソリューション、サードパーティSI型の3つの選択肢から、物件に最適な方式を選択いただきます。例えば『ザ・パークフロントホテル』さまではメーカー純正を活用した実績があり、『熱海パールスターホテル』さま(エレベーターは三菱電機)では当社モジュールを採用いただいています。こうした実績の積み上げで、各エレベーターメーカー側の理解が進むほど、導入はスムーズになっていくと考えています」

——クラウドを使わず、閉域で動かす運用も可能でしょうか?

姫島氏:「はい。ネットワークに繋がず、エッジ完結も可能です。原則はクラウドに地図やタスクを持たせる運用ですが、工場・病院のようにセキュリティ要件が厳しい現場ではローカル完結で回します。閉域運用やレジリエンスの観点でもメリットがありますね」

AIとロボティクスの相互作用

——御社のサービスロボットにおける、AIの具体的な活用例を教えてください。

姫島氏:「一般的な論点とは別に、大きくふたつございます。ひとつ目は、走行ルートの自動生成・最適化。人や障害物で通路が塞がっても、最短の別経路を即時再計算し続けるためのものです。『行けないから止まる』ではなく、『行ける道を瞬時に再探索する』に寄せる。ここは運用のストレスを地味に下げるところですね。

もうひとは、自動タスク生成です。配達中に転倒者や落下物やゴミを検知した際、清掃やアラート送出といったタスクを自動で起票。見回り機能とも連携して即座に気付き、ロボットが先回りして対応できるように開発を段階的に進めています」

——実務的なところの他に、ユーザー体験などでのAI活用も考えてらっしゃいますか?

姫島氏:「こちらはまだデモ段階ですが、第一段階としてホテル宿泊者向けの機能を想定しています。チェックイン時にご記入いただいたお名前と電話番号に紐づけてSMSを送付し、リンクから多言語チャットが立ち上がる。そこで問い合わせや案内、簡単な依頼ができて、将来的にはそのまま注文内容がロボットのタスクに自動変換され、客室へのルームサービス配送までつながるイメージです。

また、現場側は管理画面でタスク発行や稼働状況の把握ができるので、お客さま向けと従業員向けのフローを同じ基盤で回せるのがポイントですね」

——ホテルが抱えているインバウンドへの対応としても、非常にユーザビリティも高いわけですね。

姫島氏:「訪日客は今後も増加が見込まれる一方、日本の人口減少はすぐには解決できません。要は労働力の確保がボトルネックで、現場では各社がそこに苦労している。だからこそ『一台でどこまでやれるか』が鍵になります」

お客様には快適を、現場には余白を

——「UP」の国内での反響はいかがですか?

姫島氏:「展開をはじめてまだ1年ほどですが、国内で約60のホテルに導入いただいています。特にホテルはリゾート系ブランドを中心に広がりをみせており、直近では病院分野の伸びが顕著です。

とくに病院内の検体搬送ではスピードと正確さが求められる一方、従来は人員確保や搬送時間のばらつきが課題だったそうです。しかし『UP』の導入後は搬送の効率化・安定化が進み、結果として検査業務全体の品質向上にも寄与している、という評価をいただいています」

——病院では医療従事者向けのサポートを担っているわけですね。

姫島氏:「運用方法は事業者さん次第ですが、既存の導入事例を見ているだけでも『UP』の多機能性が活かされています。ちなみに、病院でご利用いただいている事例では、2025年5月だけで検体搬送が673往復、走行距離は40km超、稼働時間は60時間超という実績が出ています。従来はスタッフが担っていたこの移動業務を、ロボットが安定して肩代わりできるようになったわけです。

ホテルの場合はホスピタリティ向上や話題性といった定性的な価値で導入されるケースも多いのに対し、病院は業務効率や人件費置換など、定量的な費用対効果が明確に出やすい領域だと感じています」

ロボットオペレーションの現在地と突破口

——オフィスのセキュリティロボや飲食店の配膳ロボが散見されるようになりましたが、日本のロボティクス市場の現状は?

姫島氏:「市場としては非常に広くなってきていますが、まだまだこれからというのが正直なところです。海外と比較して大きく遅れている状況はありつつですが、日本の場合、安全の裏返しみたいなところもあるのでしょう。また、日本は多層階の建物が多く、エレベーター連携の未整備が最大のハードルです。

単機能ならまだしも、多機能ロボはワンフロア運用では効率化が限定的。さらにバックヤード用エレベーターを使いたい場面で防火扉などにより動線が分断され、パブリックからバックヤード間を行き来できないことも障壁になります。結局は動線の確保が肝で、それらの課題が解けない限り、成長カーブに本格的には乗り切れないと考えています」

——エレベーター連携の未整備とは、具体的にはどのような障壁となっているのでしょうか。

姫島氏:「弊社の技術仕様として実はまったく問題ないのですが、課題は主にエレベーターメーカー側との連携・保守にかかるコスト面です。月額で10万円規模の費用が発生するケースもあり、ロボット本体の運用費と合算すると、導入側としてはメリットを感じにくくなってしまいます。

さらに、メーカーと保守の体制、物件ごとの仕様によって調整工数や条件が変わるため、個別調整が避けられない。ここも導入スピードのブレーキになっています」

——需要面や技術発展の観点から、サービスロボットの今後はどうなるとお考えですか?

姫島氏:「あくまで個人的な見立てですが、緩やかな加速をして、分岐点がやってきたら爆発的に増加するだろうと思っています。そのときのトリガーは、きっとエレベーター連携の標準化でしょう。いまはメーカーごとにロボット側が個別連携を組んでいますが、API公開や乗り入れ規格の共通化が進めば、リスクとコストが平準化され、参入、導入が一気に進むはずです。時期は、早ければ2027年ごろに分岐点が来るイメージですね」

——新しい機能を追加するためにもAIの進化は必要不可欠かと思います。AI技術そのものに期待されていることは?

姫島氏:「個人的にですが、AIには意思決定の踏み込みを期待しています。例えば今のAIアシスタントは中立で、プロンプト次第で答えが揺れるところがありますよね。それをデータと根拠を示しつつ、彼らの中立な見解まで出してくれるAIになると、現場の判断がぐっと前に進む。その最後のひと押しをしてくれる存在にAIがなってくれたらな、なんて思いますね。

そんな高度なAIがサービスロボットに組み込まれれば、自分でタスクを判断し、より効率がよくなってくれるでしょう」

——ロボティクス市場の成長可能性については、どう見ていますか?

姫島氏:「かなり高いと思います。日本についてはやや極端ですが“0か100”の未来を想定しています。0のシナリオは、エレベーターメーカー各社が頑なで、連携コストが高止まりし、他方で労働供給が潤沢になって人件費の優位が増す場合。そうなるとロボットの価値は相対的に下がります。一方、100のシナリオは、インフレ・採用難が続くなかでエレベーターメーカーが門戸を開き、連携の標準化・低コスト化が進むケースです。そのときマルチパーパスな『UP』が爆発的な価値を提供できると確信しています。

そのためにも、業界全体としては、やはりロボティクスのオープン化・標準化を一緒に進めたい。共通の考え方と規格が固まれば、賛同企業は加速度的に増えるはずです。私たちはその流れのなかに身を置き、パイをしっかり持つことで、市場の成長をいちばん面白がれる企業になりたいと思っています」

RoboPath株式会社

「AIソリューション×ロボティクスで社会課題を解決する」をミッションに、ホテル・病院・工場・商業施設など多層階の施設向けに、自律型AI搭載サービスロボット「UP」の開発・提供を行うスタートアップ企業。エレベーター連携機能を備え、配達・運搬・清掃など多用途を1台でこなすロボットを展開し、多層階施設における人手不足や効率化の課題解決に取り組む。

https://robopath.co.jp/

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