クリエイティブ表現に変革をもたらした、“AI×モデル”の舞台裏

#DX

ファッション系ECサイトで服を購入するとき、必ず目にするのがモデルの写真。実はここでも生成AIが活躍しています。AI model株式会社は、「AIモデル」や「AIタレント」を生成する生成AIシステムを独自開発しています。撮影のリードタイム短縮やコスト削減、ECサイトなどの効率化に寄与するAIモデルとして、2022年にサービスを開始。三越伊勢丹やサザビーリーグ、キヤノンマーケティングジャパンなども出資し、現在ではアパレル業界に限らず、さまざまな業界から高い評価を得ています。今回は同社のCTO 中山佑樹 氏に、ファッション業界のクリエイティブ表現に起こった近年の変革、さらにはAIモデルの可能性についてうかがいました。

アパレル業界の「ささげ業務」の課題をAIモデルで解決

——「AIモデル」のサービスを立ち上げたきっかけは何ですか?

中山佑樹氏(以降、中山氏):弊社代表の谷口大季がもともとアパレル系ECサイトの構築・運営やシステム開発やクリエイティブを制作する会社を経営しており、いわゆる「ささげ業務(商品撮影に必要な撮影・採寸・原稿作成の頭文字をとった略称)」に課題を感じていたことが元になっています。

従来、アパレルブランドの商品撮影をする場合、モデルは何着もの商品を着て撮影することになりますが、近年、デジタルシフトが加速してEC市場が拡大していくにつれて撮影の手配から納品まで、現場に大きな負荷がかかっていました。

また、クライアント側ではECサイトでモデルを起用したくても、コスト面から断念してしまうといったケースも多くありました。そうしたことから、最新の技術を使って問題解決できないか、と考えたのがスタートになっています。

——2018年というと、当時はまだGAN(敵対的生成ネットワーク)がメインのころですよね。

中山氏:そうですね。まだ生成AIもぜんぜん流行っていませんでした。当時はAIだけに絞らずいろいろな方向性を探ったのですが、問題の解決にはやはりバーチャルヒューマンしかないと判断しました。2018年からすぐに研究開発をスタートして、2020年に会社を設立。2022年にサービスインしました。

——アパレル業界だけでなく、他業種からの依頼も増えているそうですね。

中山氏:はい。元々は9割近くがアパレル系のクライアントだったのですが、現在は6〜7割ほど。伊藤園さんやタケモトピアノさんのTVCM案件をきっかけに、企業の広告やグラフィック制作にAIモデル、AIタレントを活用したいというお話も増えました。

AIでクリエイティブの質を高める

——さまざまなクライアントと仕事をするなかで、サービスの変化はありましたか?

中山氏:アパレル以外の業種からの依頼が増えているところが大きな変化です。お問い合わせいただく内容を見ていると、その広がりはかなり感じていて。その点、バーチャルヒューマンが持つポテンシャルを日々実感しています。

——AIモデルには具体的にどんなメリットが挙げられますか?

中山氏:モデルさんに1日100コーデの衣装を着てもらうような、現実では難しいことも出来るようになる点です。逆に、撮影枚数が1枚だけだとモデルを呼びにくい、みたいなときでもAIモデルなら気軽に使えますし、ここはかなり大きなポイントなのかなと思っています。予算の関係でモデルの着用カットの撮影を諦める、ということもありません。

——生成AIシステムはAI modelが独自に開発したものだそうですが、技術的に難しかった点などありますか?

中山氏:AIの精度だけでなく、クオリティと実用性をどう両立させるかが大きな課題でした。ECサイトや広告で実際に使えるかどうかという視点が欠かせないため、技術を追い求めるだけでは実現出来なかったと思います。

細部にこだわれる生成AIシステムがAI modelの強み

——中山さんからご覧になって、日本の「クリエイティブ×AI」の領域は、世界と比較してどう見えていますか?

中山氏:判断はすごく難しいと思いますが、少なくとも日本は遅れてはいないと思います。米国で賞を取るようなすごいCMとかってVFX(視覚効果)の範囲で、AIを使ったクリエイティブが多いわけではないんですね。で、「クリエイティブ×AI」の観点から見てみると、各国それぞれ、その国ならではの事情がAIの普及を妨げている部分があるのかなとも思っています。労働者の権利が強い米国ではAIに仕事を奪われるという意識が強く、反発されることも多い。一方日本では権利関係にナイーブで、AIが学習している内容の著作権などに敏感です。

ただし、中長期的な視点で見たときには、米国や中国といった海外の方が、日本よりもAIが使われるケースが多くなっていくのかな、という気がしています。というのも、日本はクオリティに対してすごく厳しいんですね。服1着撮影するにもニュアンスやディテールに細かくこだわるので。

——貴社としての今後の展望を教えてください。

中山氏:現在、弊社が独自開発している生成AIシステムを 、弊社だけではなくモデル撮影に関わる制作会社や広告代理店やEC支援事業社など、様々な企業にご利用いただき、その先のクライアントの課題解決や業界全体の発展に繋げていきたいと考えています。その為にも、バーチャルヒューマンのクオリティをさらに高めてベストなものを提供できるように引き続き開発を強化していく必要があると考えています。

——最後に、中山さんがAIの進化に対して期待することを教えてください。

中山氏:僕はSF好きなので、これまで映画で見ていたような未来の世界が現実に近づいているのを目の当たりにするのはとても楽しいです。技術が進化していくなかで、いろんなAI技術が組み合わさりはじめていますよね。見たことのない新しい表現や体験が生まれる、みたいなことが起こるのをとても期待しています。

一方で、AIが進化する過渡期だからこそ、いまがまさにおもしろい時期だとも思うんですよ。例えば、生成AIが生み出す映像や画像にちょっとした違和感が残っていたり、チャットでAIの返答が想定外に飛んでしまったりするのも、今だけの「味」みたいなものだと思います。10年後に振り返ったら、「この時期のAI作品って時代を感じるよね」っていう独特な価値が出てくるんじゃないかなって、そういうのが楽しみだったりします(笑)。

AI model株式会社 CTO 中山佑樹 氏

慶應義塾大学卒業後、新卒で広告制作会社に入社。TVCMのPM/Prとして勤務。 その後、WEBサービスやアプリ・システム開発会社での勤務を経て、2020年よりAI modelの開発に携わり、現在、AI model株式会社のCTOとしてAI・システム開発統括を行う。
AI model株式会社

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