AIに“選ばれる”ブランドになるために。株式会社LANYに聞く、新時代の戦略「LLMO」

Google検索にてAIモードが2025年9月に日本でもリリースされました。検索窓に入力した内容をAIが理解し、インターネット上から回答や関連情報を生成・提示するという機能ですが、こうした変化は企業のデジタルマーケティングにも大きな転換を迫っています。従来のSEO(検索エンジン最適化)対策に加え、AIに自社のブランドやサービスを正しく認識させ、引用してもらいやすくするための新たな戦略が求められています。それが「LLMO(Large Language Model Optimization:大規模言語モデル最適化)」です。今回は、デジタルマーケティング支援を手がける株式会社LANYのコンサルタント・永江竜佑さんに、LLMOとは何か、なぜ今重要なのか、そして、企業は何から始めるべきなのか。詳しくお話を伺いました。

LLMOとは? AI時代の新たな最適化戦略

——まずはLANYという会社について教えてください。

永江竜佑氏(以下、永江氏):「私たちLANYは、『価値あるものをインデックスさせる』というミッションを掲げるデジタルマーケティングの支援企業です。クライアントの本質的な成果創出にこだわり、戦略設計から実行までを『グロースパートナー』として一気通貫で支援する伴走型サービスを提供しています。今回の主題であるLLMOを含むデジタルマーケティングの支援以外にも、企業の採用支援も直近で新しく始めています」

——「LLMO」とはどのようなものでしょうか?

永江氏:「LLMOとはLarge Language Model Optimization(ラージ・ランゲージ・モデル・オプティマイゼーション)の略語で、具体的には、AIに自分たちのサービスやブランドがしっかりと引用されたり、言及されたりすることを目指す取り組みを指します。ChatGPTやGeminiなどでユーザーが何かを質問した際、仮に『おすすめのSEOコンサルティング会社を教えて』と聞かれた際に、ちゃんとLANYのことが言及されるように最適化していく。これがLLMOです」

——現在は従来の検索エンジンとAI検索が並走している状態。LLMOという概念は、その両方に関わってくるのでしょうか?

永江氏:「基本的には両方に関わります。まず、LLMOという言葉が指すのは、ChatGPTやGeminiの中でいかに言及されるか、という部分を指すことが多いです。ただ、もう一つ、Google検索でいわゆる『ググる』際にページの上部に出てくる『AIによる概要』や、直近で実装された『AIモード』と呼ばれる、Geminiと対話しているようなUIもありますよね。これまで私たちが使っていた検索エンジンの中にもAIが実装されてきているので、LLMOは『AIチャットツール』と『従来の検索エンジン』の両方に関わってくる概念になっています」

——LLMOという考え方が登場した背景や、企業が注目し始めたきっかけは?

永江氏:「やはりAIの進化の速さですね。特にChatGPTやGeminiといった対話型のAIチャットツールが世の中にリリースされたことでしょう。これによって、情報検索の方法そのものが変わりましたから。今までは、何か調べようと思ったら検索エンジンで検索して、自分で色々なサイトを見て、情報収集して、比較検討して、意思決定するというプロセスでした。それが、ChatGPTやGeminiに質問するだけで完結するようになったんですね。場合によっては、そこから直接問い合わせをしたり、商品を買ったりするという流れが生まれてきたのが、直近の大きな変化です」

従来とAI時代における情報収集の違い

——世界的に見ても、こうしたLLMO対策は進んでいるのでしょうか?

永江氏:「実際に対策されている企業がどれくらいあるかというと、まだそれほど多くはありません。私たちが直近で行った企業のLLMO対策実態調査(Webマーケティングを3年以上行っている企業の経営者・役員100名を対象)によると、LLMOに対して本格的に実施している企業と、試験的に開始している企業を合わせても約40%でした。多くの企業は、まだまだ慎重に動向を伺っているフェーズにいると思われます」

出典:株式会社LANY実施「企業のLLMO対策実態調査

「一次情報」や「独自の情報」を発信することの重要性

——LLMOとSEOの決定的な「違い」はどこにあるのでしょうか?

永江氏:「大きな違いは、『最適化の対象』です。SEOは検索エンジンの上部に自社サイトが表示されるように対策することで、サイトに訪問してもらい、コンバージョン(問い合わせなど)につなげることが目的でした。一方、LLMOは“AIに選ばれるための最適化”を行います。

SEOが検索アルゴリズムに対して最適化することが中心であるのに対し、LLMOはインターネット上の『信頼性』や、AIが回答の根拠とする『情報源そのもの』にアプローチしていきます。もちろん、自社のサービスサイトを改善することは引き続き重要です。これからの時代、それに加えて自社のサイト以外の場所、例えば第三者のメディアや比較サイト、口コミサイトといったところの対策まで、一歩も二歩も踏み込んでやっていかないといけない。そこが大きな違いかなと思います」

——企業がLLMO対策を始める場合、まず何から手をつけるべきでしょうか?

永江氏:「大きく3つのステップがあります。1つ目は、“戦うべき入り口を決める”こと。自社のサービスやブランドが、どういう文脈で選ばれたいのかを決める、ということです。SEOコンサルティングサービスに置き換えると『クリニック領域に強い』とか『ECサイトに強い』とか、色々あると思います。その中のどこで選ばれたいのかを、まず自社のブランドの強みに立ち返って決めます。

2つ目のステップは、その文脈(想起)の中で、“AIがどういう判断基準で選んでいるのかを特定する”ことです。例えば、モバイルバッテリーなら、『重さ』『デザイン性』『バッテリーの持続時間』『使いやすさ(コード内蔵か)』など、AIが比較検討する基準があるはずです。

3つ目のステップは、“信頼されるための証拠や根拠をインターネット上に置いていく”ことです。ステップ2で特定した基準で選ばれるために必要な、信頼される証拠、つまりコンテンツや情報を提供し、インターネット上に置いていく。AIにそれを学習させるイメージです」

【LLMO対策のポイント】
■STEP1 自社のサービスやブランドが、どういう文脈で選ばれたいのかを決める
■STEP2 AIがどういった判断基準で選んでいるのかを特定する
■STEP3 信頼される証拠や根拠をインターネット上に配置する

——SEOでは特定のキーワードを連発したり、記事を大量作成したりする手法もありました。そのようなアプローチはもう通用しないのでしょうか?

永江氏:「いわゆる『誰でも書ける情報』は、AIを使えば本当に誰でも簡単に書けるようになりました。記事で読まなくてもAIに聞けば出てくる情報をコンテンツにしてばらまく価値は、どんどん薄くなっていると言えるでしょう。

重要なのは、『一次情報』や『自社独自の情報』をいかにちゃんと提供していくかです。特に、企業の場合は『自社のサービス情報を漏れなく正確に書く』ことがおざなりになっているケースは意外と多いので、そこをしっかりやり切ることが大事かなと思います。実際、私たちがLLMO診断をさせていただく際に、『なんとなく感じていた課題を改めて教えられた感じがします』と感想をいただくこともあります」

——これまでにLANYが手掛けたLLMO関連の事例についても教えてください。

永江氏:「あるクリニックの事例です。当時の課題は『信頼できる〇〇のクリニックを探して』といった、信頼性を重視するプロンプト(指示文)で、AIに推奨されていないことでした。そこで私たちは、“AIが信頼できると判断するために参照しているWebページにおいて、そのクリニックが信頼できるという客観的な情報が不足しているのではないか”という仮説を立てました。

分析した結果、そのクリニックの実績ページがAIに参照されていることは分かったのですが、AIに推奨されているクリニックの実績ページと比較した際の客観的な事実──例えば治療のビフォーアフターが分かる写真や、定量的なデータといった情報の出し方が弱いことが見えてきました。

そこで、治療経過のビフォーアフター写真をしっかり載せたり、数値的な定量データをファクト(事実)として掲載したりする施策を実施しました。その結果『信頼できるクリニック』という文脈でそのクリニックが推奨されるようになりました。さらに、言及される内容もファクトが反映されたことで、来院を後押しするような説得力の高い文章に変わりました」

AIが「本質的な価値」を届きやすくする

——AIの台頭により企業が提供すべき情報がより明確になったいま、今後のAIの発展についてはどのようにお考えですか?

永江氏:「AIは大きな革命に近いものだと思っているので、世の中はどんどんAIを使う方向に変わっていくと考えています。また、AIの登場と進化は私たちの生活そのものをとても便利なものにしてくれると思っています。今までは情報を調べるために検索エンジンに入力するキーワードを考え、多くのサイトを見比べ、評価するという目に見えないコスト、いわゆる『デルフォイ的コスト』がかかっていました。AIはこの部分を代替してくれる、心強い存在だと考えています」

AIはデルフォイ的コストを削減してくれる

——情報収集や比較、評価をAIがやってくれるようになると、「選び方」はどう変わる?

永江氏:「例えば『掃除機といえば?』と聞かれると、多くの人が『ダイソン』と答えるように、これまではすでに刷り込まれた印象で選ぶことが多かったと思うんです。比較コストが大きいから、印象で決めてしまう。ですが、AIがそのコストを代替してくれることで、ブランドだけでなく本当にその人のライフスタイルに合った商品や、ニーズにより適したスペックのものが選びやすくなっていくと思います。つまり、より“本質的に価値があるもの”が届きやすくなる時代になっていくんじゃないか、と。少なくとも、私たちはそうあってほしいと願います」

——検索エンジンの世界では、いわゆる「まとめサイト」や広告が増え、純粋な情報にたどり着きにくいという声もあります。AIの世界では、情報の純粋さ(ピュアさ)は担保されるのでしょうか?

永江氏:「短期的には検索エンジンと同じような流れを辿る可能性はあると思っています。検索エンジンもピュアな状態から始まり、ビジネス的なハック(攻略)が登場し、Googleが対策し、また新たなハックが生まれ……という繰り返しでした。AIでも同様のことは起こる可能性はあると思います。とはいえ、AIは世の中のありとあらゆる情報を参照して回答を出すため、簡単にハックするようなことは難しくなってきていると感じています

——AI時代に評価される「強いコンテンツ」とは何でしょうか?

永江氏:「AIが作ったか、人間が作ったか、という二分法よりも、『それが人にとって価値ある情報かどうか』が重要だと思います。AIを活用することで作業が効率化され、人のリソースを『取材』や『深掘り』といった、より価値を生む部分に多く割けるようになれば、コンテンツの価値は高まるはずです。例えば、有限なリソースの80%をAIで効率化し、その分を取材や深掘りに使えるようになれば、コンテンツの価値は上がりますよね」

——そうなると、オウンドメディアのあり方も変わってきそうですね。

永江氏:「世の中にある情報をまとめただけ、他のコンテンツと同じものを量産するだけでは、これからどんどん価値がなくなってきています。オウンドメディアを運営している方こそ、『そのメディアは、誰にとって、何の価値があるものなのか』という点に、もう一度目を向ける必要があると思います」

——最後に、LANYとしての今後の展望について教えてください。

永江氏:「LANYとしては、単なる支援会社やコンサルタントではなく、本当の意味でお客様のパートナーとして走っていきたいと思っています。コーポレートサイトに『ザ・グロース・パートナー』というメッセージを掲げている通り、お客様の事業成長に本気で向き合うパートナーでありたい。私たちはお客様の“横に立つ”ということを大事にしています。同じ景色を見ながら、同じ課題に向かって悩んだり、成功を喜んだりする。それを自分のこととしてやれる会社でありたいと思っています。

また、これからの世の中は、AIの登場によってどんどん便利になり、価値ある情報が届きやすくなる世界になっていくと思います。本質的に価値あるものをきちんと世の中に届けていく。私たちはそのような未来を描きながら、支援を続けていきます」

株式会社LANY
デジタルマーケティング支援事業部 グループマネージャー / コンサルタント
永江 竜佑

広告代理店に新卒で入社後、複数の事業会社にてSEO、広告運用、CRMなど幅広いマーケティング業務の戦略設計から実行までを一貫して担当。SEOチームの立ち上げやモニタリング体制の構築に加え、CRMなどのチャネルを活用したユーザー接点の強化にも取り組む。LANYのLLMOプロジェクトの立ち上げから関わり、現時点でも数社の支援実績あり。

コーポレートサイト:https://www.lany.co.jp/
X(SEOおたく):https://x.com/seootaku
YouTube(SEOおたく):https://www.youtube.com/channel/UCycCmsyXHVk_n68I7jkEReg

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