大切な人を偲ぶ時間に、テクノロジーという新たな選択肢が加わろうとしています。2024年に誕生した「Revibot(レビボ)」は、生前の映像や音声から故人の表情や声、話し方のクセまでを再現し、あらかじめ用意されたメッセージを語りかける“バーチャルAI故人アバター”を届けるサービスです。今回は、この先進的な取り組みを展開するアルファクラブ武蔵野取締役・小川 誠さんに、サービス誕生の背景やAIと故人をめぐる倫理的配慮、そして今後の展望についてお話をうかがいました。
ニーズに寄り添った葬儀社のあり方
——まずは貴社のサービス内容について教えてください。
小川 誠氏(以下、小川氏):「創業は1962年です。個人経営の葬儀社「さがみ典礼」から始まり、そこから冠婚葬祭互助会へと展開し、ブライダルやホテルなども手がけるトータルライフサービス企業へと発展してきました。現在の中核事業は葬祭部門になります。
直近の20年ほどでM&Aも積極的に進め、「小さなお葬式」で知られるユニクエストや、ライフアンドデザイングループといった地域密着型の葬儀社もグループに加わっています。グループ全体では年間16万件ほどのご葬儀を担当しており、業界でもトップクラスのシェアとなっています」
——葬儀のかたちも多様化するなかでさまざまなニーズに寄り添われていますが、近年はメタバースの中で霊園を展開したり、先進的な取り組みも印象的です。
小川氏:「私たちはトータルライフサービスの提供を目指す企業ですが、そのためには、未来を見据えた事業継承が欠かせないと考えています。現在、日本の年間死亡者数はおよそ160万人と、2040年をピークに右肩上がりに増加しているのに対し、昨年の出生数は約68万人。このまま推移すれば、2040年以降、年間の葬儀件数は大幅に減少する可能性があります。こうした人口動態の変化を踏まえると、私たちも事業ドメインそのものを見直していく必要があります。
従来のお葬式という“点”の儀式だけでなく、その周辺や前後を含めた“面”としてのサービスに広げていくことが求められているのです。そうした観点から、5年後、10年後を見据えたデジタル技術を活用した新たなサービスの開発を進めているところです」
——今回は「AI×冠婚葬祭」がキーワードですが、他社でも同様の新しい取り組みは見られるのでしょうか?
小川氏:「正直なところあまり見かけず、この分野に関しては私たちが先行しているという実感があります。もちろん、成果が出ているかどうかは将来的に答え合わせが必要だとは思いますが、現時点ではかなり先を進んでいるという印象です。業界全体としては、まだまだ保守的な傾向が強いと感じていますね。
少しビジネス的な話になりますが、現在、全国には約5,000社の葬儀社が存在しています。しかし今後の人口動態を踏まえると、葬儀件数のピークは2040年頃になると予測されており、それ以降は業界全体の統廃合が進んでいかざるを得ません。そうしたなかで、私たちは常に変化するニーズに目を向け、新たな形で寄り添っていく姿勢を大切にしているんです」
——葬儀会社とテクノロジーは、素人目には一見結びつきにくい印象があります。小川さんご自身はもともとITに明るかったのでしょうか?
小川氏:「実は、学生時代にITとマーケティングを掛け合わせた会社を起業し、IPOも経験しています。その会社では、広告配信の仕組みやデータビジネスに関するサービスを提供していました。4年前に代表を退任し、その後、アルファクラブ武蔵野の取締役に就任したという経緯があります。
直接AIの分野ではありませんでしたが、近い領域にいたこともあり、今回の取り組みも比較的スムーズに発想できました。私はエンジニアではなくディレクター的な立場だったので、むしろ柔軟に物事を捉えられたのかもしれません」
——異色の経歴から、冠婚葬祭業界に飛び込まれたのですね。
小川氏:「自分でもそう思います(笑)。前職ではBtoB領域で、私たちのテクノロジーを他業界と掛け合わせることで、どんなことができるかを常に考えていました。たとえば、金融業界と組み合わせたフィンテック、広告業界とのアドテック、人材業界のHRテックなどですね。
そうしたなかで、これまであまり注目していなかった葬儀業界にテクノロジーを掛け合わせたら、他の分野以上に大きなイノベーションを起こせるのではないかという思いが芽生えました。また、コンシューマー向けのサービスであることも重要だと考えています。クルマもインターネットも、そしてAIも、時代を動かす力を持っていたのはやはり生活者に直接届くものでした。そうした点からも、可能性を強く感じています」
故人を弔う新しいテクノロジー
——2024年12月にリリースされた、バーチャルAI故人サービス「Revibot」。具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。
小川氏:「写真やホームビデオなどの映像から、生前の人相や声、話し方の特徴を抽出し、生成AIの技術を用いて、故人が話したり動いたりする動画を制作するサービスです。『Revibot』によって生成された故人のAIアバターを通じて、懐かしい記憶や、伝えたかった想いに触れることができる。そうした心の交流を、よりリアルで温かなかたちで体験できることを目指しています。寂しさを少しでも和らげ、想いをつなぐ手段として、新たな弔いの形を提案させていただいてます」
——サービス利用の流れを教えていただけますか?
小川氏:「お葬式の現場に即してお話ししますと、現在、都市部では火葬待ちの期間が非常に長くなっており、東京では10日から2週間ほどかかるケースもあります。そうした安置期間のあいだに、ご遺族の方から映像や音声といったデータをご提供いただき、あわせてご同意をいただいたうえで、『Revibot』の制作に入ります。納品は最短で翌日も可能ですが、今後の需要増加も見据えて、通常は“3日以内の納品”を目安としています。
——「Revibot」はどのような経緯で誕生したサービスなのでしょうか?
小川氏:「近年では墓じまいや仏壇じまいが進み、かつて自然と故人を思い出す場所であったお墓や仏壇が少しずつ姿を消しつつあります。そうした状況に私たちは危機感を覚え、故人を思い出す機会を新たなかたちで提供できないかと考えるようになりました。その一つの答えが、メタバースやAIを活用したサービスです。現代において、もっとも身近なデバイスであるスマートフォン。その中に“思い出の場”を持つことで、いつでもどこでも気軽に故人を偲ぶことができる。そんな利便性と親しみやすさを重視して、『Revibot』はスマホでも利用できるサービスとしてリリースしました。

この取り組みの背景には、2024年に立ち上げたメタバース霊園『風の霊』の存在があります。『風の霊』は、PCやスマホからアクセスし、自分のアバターで供養に参加できるオンラインの霊園で、今回の『Revibot』はその発展系です。当初は、メタバース空間内でAIが故人の人格を学習し、会話ができるようなサービスの構想もありました。しかし、現段階ではさまざまな価値観や倫理的な配慮を踏まえ、『Revibot』は事前に指定された言葉のみをお話しいただく仕様としています。

また、メタバースとの連携により、スマートフォンなどから24時間365日、いつでも故人を偲ぶことができる環境を整えており、現代のライフスタイルに合わせた、これまでにない弔いのあり方を提案させていただいております」
——リリースから半年ほど経ちましたが、実際に利用されたお客様の反応はいかがでしょうか?
小川氏:「ご利用いただいた皆さまからは、感動の声を数多くいただいております。それは間違いありません。むしろ導入にあたってのハードルはご依頼いただく前にあるのだと思います。一度ご依頼いただいた方で涙を流されなかったご依頼主は、ほとんどいらっしゃらないほど……。
また、印象に残っているのは、20年以上前の映像をもとに、当時中学生で亡くなられた方の『Revibot』を制作依頼されたご家族。長い時間を経てご遺族の気持ちにもひとつの節目が訪れ、今だからこそ形にできたという印象のあるケースでした」
——気持ちの整理がつかない方もいるかと思いますが、ご家族の気持ちが第一にあり、新たな弔いの選択肢として存在すること自体に価値がありそうですね。
小川氏:私たちは『Revibot』をお葬式の場だけで使っていただくものとは考えていません。むしろ、年忌法要や、お孫さまの小学校入学、ご家族の結婚など、人生の節目に合わせて未来へのメッセージを残すサービスにしていきたいと思っています。また、弊社ではブライダル事業も展開していますので、今後は結婚式の中で、本来は参列してほしかったけれど叶わなかった親族からのメッセージを、サプライズ演出として流すような活用方法も議論されていて。“チャペル前ムービー”のようなシーンでも活用できるのではという声も出てきています。
技術と倫理のはざまで
——開発にはどのような段階を踏まれたのでしょうか?
小川氏:「自社で一から開発したわけではなく、AI技術を持つ「FLATBOYS」という会社が開発ベンダーとして協力してくれています。私たちの構想をもとに、技術面を担っていただきながら開発を進めてきました」
——バーチャルAI故人とはまだ見慣れないサービスゆえに、驚かれる方も多いと思います。弔いの形や死生観への向き合い方について、社会的にどのような変化を感じていますか?
小川氏:「アジア諸国ではすでにこうした類似サービスが徐々に広まっていると聞いていますが、日本ではまだ慎重な姿勢の方が多い印象です。もちろん、世界的に見ても万人に受け入れられるサービスではないことは理解しています。そのうえで、グリーフケアのひとつの手段として必要とされる方にお届けできれば、それで十分意義があると考えています。

私たちは“AIで何でも実現できます”と競うつもりはありません。むしろ、時代背景や倫理観を踏まえたうえで、どの技術を実装し、どの段階でブレーキをかけるのかという判断を重視しています。そのために外部の有識者も交えて議論を重ね、技術そのものよりも、むしろその線引きの部分に多くの時間を費やしました。結果として、技術面だけでなく倫理面にも十分配慮したかたちでリリースできたと自負しています」
——故人の扱いに関してもそうですが、AIの利用方法については現在、社会全体としても過渡期にあり、さまざまな議論が行われています。たとえば「AIに慣れすぎることで人格に影響があるのでは」といった懸念もありますが、御社としてはどうお考えでしょうか?
小川氏:「私たちはメタバース霊園の開発段階から、AIを用いたサービスのリスクを深く見つめてきました。その一環として、社内に倫理委員会を立ち上げ、日々のサービス検討とあわせて議論を重ねています。この委員会では、社内外の有識者を招き、宗教観や死生観、AIガバナンス、倫理観といった幅広い視点から意見を伺っています。定期的な意見交換の場を設けながら、より包括的なリスク評価を行って企業としての適切な判断に活かしています。

そうしたなかで印象に残っているのが、“忘れることもまた、大切なプロセスである”というご意見です。思い出を手元に置いておけることの価値もありますが、逆に忘れられないことが心の負担になるケースもある。だからこそ、『Revibot』は必要がなくなったタイミングで、いつでもデータを削除できるような仕組みにしています。
たとえば先ほどご紹介した、20年以上前にお子さまを亡くされたご家族も、もし当時『Revibot』が存在していたとしても、すぐには受け入れられなかったと思います。心の整理がつくその時に、そっと寄り添える存在であることが私たちの目指すあり方です」
——今後、AIのアップデートも含めた展望として、御社がテクノロジーを使ってさらに拡充していきたい分野について教えてください。
小川氏:「技術的には、すでにかなりのことが実現可能だと思っています。ただし、私たちはあえてブレーキをかけている部分があります。その一つが人格の学習です。たとえば、故人が遺した日記やSNSの投稿など、人格形成の手がかりとなる情報をAIに学習させることで、その方らしい応答ができるようになる可能性は十分にあります。また、音声の再現についても、すでに技術的には対応が可能ですので、将来的には双方向の会話も実装できるでしょう。ただし、現時点では日本社会の価値観や感覚が技術にまだ追いついていないと感じています。
ですので、現段階では『事前に用意されたメッセージを話す』という仕様にとどめています。しかしながら、人格を学習し、双方向で会話ができるという未来像に対する期待は大きく、いずれそのニーズが社会的にも受け入れられるタイミングが訪れるのではないでしょうか」
——今後、「Revibot」に限らず、冠婚葬祭の分野にもテクノロジーはさらに参入してくるとお考えですか?
小川氏:「私たちは、時代とともに少しずつ変化が進んでいくと考えています。実は現在、私の方で“コミュニケーションが取れる仏壇”の開発を進めているんです。核家族化の影響もあり、仏壇は以前に比べてコンパクトになり、遺影を飾るスペースも限られてきています。そうしたなかで、新しい形の仏壇を取り入れることで、これまでと変わらず、あるいはそれ以上に、故人を敬う時間や場を持てる可能性があると感じています。
AIという先端技術を、人の心に寄り添うかたちで活かそうとする「Revibot」。大切なのは、誰かを思い出し、つながり続けるための新しい場をどう作るかということ。その問いに対して、小川さんは丁寧な倫理観と確かな実装技術で応えています。技術はあくまで手段。そこに込められた想いこそが、人の心を支える力になるのかもしれません」

アルファクラブ武蔵野株式会社 取締役 小川 誠 氏
葬祭業界における新たなテクノロジー導入を推進。故人の映像をもとに在りし日の姿を再現するバーチャルAI故人サービス「Revibot」の立ち上げに携わり、技術面のみならず倫理的な観点にも重きを置いた開発を行っている。業界イベントやメディアでも積極的に発信を行い、AIと死生観の関係についての社会的な対話を促している。
https://revibot.jp/