AI博覧会 Summer 2024 イベントレポート

2024年8月末、ベルサール渋谷ファーストで開催されたAIのリアルイベント「AI博覧会」に、株式会社アクセルとax株式会社が出展。製品の展示をはじめ、AI検査機の導入実例をテーマに対談を行いました。今回は、その様子をレポートします。

最新のAIが一堂に会する専門展

AIポータルメディア『AIsmiley/アイスマイリー』が主催する「AI博覧会」は、国内のAI関係企業や専門家が集まり、展示や公演、デモンストレーションが行われるリアルイベントです。2024春に初開催され話題となり、今回はイベントの規模を約2倍に拡大。出展数は100社・150製品。最新の技術を詰め込んだAI関連の製品やサービスはもとより、生成AIをはじめとする業界のトレンドも網羅した内容に、会場は盛り上がりを見せました。

目玉となったのは、AIの専門家たちによるセミナーやカンファレンスです。22講演、32名が登壇する充実のボリュームで、生成AIやデジタル人材育成、自治体でのAI活用など、それぞれの強みを活かした内容に当日は満席が続出。まさに昨今のAIシーンの注目度の高さを象徴するような2日間となりました。

株式会社アクセルとax株式会社は「ホントに作る、使う-AI導入の上流から下流まで支援」をテーマに、両社それぞれの技術を実利用に落とし込んだ展示・講演を実施。

出展ブースでは、ChatGPTの機能に加え、独自の文章検索や画像検索、音声認識などを搭載したAI DXアプリケーション「ailia DX Insight」や、「ailia DX Insight」の機能をオンプレミスのサーバに置き、クライアントPCからブラウザ経由でAI機能を使える「ailia DX Enterprise」(開発中)」を中心に展示。

また、車載機や産業機器など発熱が許されないエッジデバイスでも利用できるマルチプラットフォーム・高速推論のAIフレームワーク「ailia SDK」のコーナーでは、学習モデルの軽量化(INT8対応)による処理スピードの速さを実演。GoogleのTensorFlowLite形式の学習モデルと「ailia SDK」を組み合わせ、MediaTek製、NXP製のSoC上で実行し推論している様子を展示しました。

ケル株式会社 × ax株式会社 対談「ailia SDK」の導入実例を紹介

講演では、基板と基板を繫ぐコネクタの開発、製造販売を行うケル株式会社の春日 明 社長と、AIフレームワーク「ailia SDK」を展開するax株式会社の代表取締役社長・寺田健彦が登壇。「ailia SDK」をベースに開発したAI検査機を導入した経緯や効果について対談。ここではその一部をご紹介します。

【会社詳細】

ケル株式会社
1962年に創業し、コネクタを半世紀以上にわたって手掛ける専業メーカー。カメラやカーナビなどの身近な電子機器から、工業機器、医療機器、工業用ロボットなど幅広い分野の基板と基板、部品と部品を「つなぐ」コネクタを開発している。

ax株式会社
“誰でも簡単にAIを実用化できる世界”を目指し、AIアプリの開発、導入支援などを行う。エッジ(端末)へのAI実装を簡単にするAIフレームワーク「ailia SDK」、学習不要ですぐに使えるAIモデル「ailia MODELS」などを展開。

細かなサポートと両社の協力体制がスピーディな導入を実現

——今回、ケル株式会社では、山梨工場にax株式会社のAI技術を導入されたとのことですが、そもそもAI導入の検討に際して、どういったお困りごとがあったのでしょうか?

春日 明 社長(以下:春日社長):工場では基本的に自動組立・検査機を使ってコネクタを生産していますが、お客様からのご要望もあり、最終段階の出荷検査は拡大鏡や顕微鏡を使って、検査員による人力の目視検査を行っています。当社ではこの検査に25名体制で臨んでいますが、今後は人口減少により、ますます人員の確保が難しくなっていくことが予想されます。そうしたなかでも会社としては、事業規模を拡大し売上を伸ばしていかなければなりません。そのため、どうにか出荷検査を自動化、省人化できないかと模索していたというのがAI導入のきっかけになります。

——この相談を受けたax株式会社では、課題解決の難しさなどについてどのような印象を持ちましたか?

寺田健彦(以下:寺田):AIはすでにビジネスの多様な分野に浸透していて、品質検査の分野でも非常によく使われています。不良品を学習して検出できないか、という相談は弊社でもよく受けていて、今回のケースでも実装は容易にできるだろうという印象でした。

我々はフレームワークを自社で作っている関係上いろいろなAIを日々研究しておりますが、そのなかでも当社の「ailia SDK」を駆使した新しいモデルを採用できないかということで、PaDiM(パディム)というモデルをご提案させていただきました。このモデルは不良品を学習するのではなく、良品だけを学習します。それも非常に少ない枚数(200枚程度)の良品画像から不良品の特徴を認識し、弾くことができるのが特徴です。

——良品画像から不良品を認識する推論側のプロセスではax社独自の技術が使われているとのことですが、詳しく教えていただけますでしょうか。

寺田:推論エンジンである「ailia SDK」は自社ですべて開発をしており、特徴はクロスプラットフォームで動作する点です。Windows、Mac、Linux、iOS、Android、組み込み機器などでも動かすことができるように開発しています。また、これらを高速で動かすためのコードも自社で開発をしていまして、GPUやNPUの性能をフル活用することで、高速な動作が可能です。今回は工場のラインのなかで出荷検査をするので、正確性だけではなく、スピードも求められるというところがあるため、高速なフレームワークとAIモデルの組み合わせで迅速に検査できるシステムを構築することができました。

——非常に少ない枚数で学習モデルが作れて、フレームワークも簡単かつ高速に動作するということで、開発や導入もスムーズだったように思われるのですが、苦労した点などはりましたか?

寺田:AIモデル自体は素晴らしいものでも、実際の現場で使うとなると、やはりいろいろな課題が出てくるものです。今回はAIモデルを運用するために、高精度なカメラを使ってコネクタを拡大して撮影する必要がありましたが、このときに撮影位置が少しずれたり、光の入り具合によって見え方が変わるなどのばらつきがどうしても発生します。そういったAIの周辺部分の問題を画像処理やハードウェアの最適化によって、どう解決していくのかが腕の見せどころです。当社では、これまでの経験から具体的な解決方法をノウハウとして持っていましたので、安定してAIを動かせる環境をスムーズにご提供することができました。

——AIの導入に際しては現場の泥臭い作業も必要ということで、細かい部分までサポートがあると安心ですね。ax株式会社では、どのような流れで導入を進めていくのでしょうか。

寺田:一般的な流れとしましては、ご相談の内容に最適なAIモデルを選定し、まずはPoCと呼ばれる概念実証を行います。その結果いろいろな課題や要件が見えてくるので、全体の構成図を作ったうえでお客様にご提案させていただきます。その後、実際に導入に向けて動き始めると、想定していなかったような問題も往々にして起こります。そうしたときには、我々のノウハウを惜しみなく生かしていくのはもちろん、お互いに協力しながら解決に進んでいく必要があります。AIは非常に新しい技術ですので、どれだけ一緒に歩んでいけるかが成功の鍵なのかなと考えております。

——両社で協力しながら導入を進めてきたということですが、現在の運用状況を教えてください。

春日社長:山梨の工場で1台導入したところです。現段階ではデバッグ作業を行っているところで、順次本格稼働を予定しているという状況です。先ほど検査員が人力で検査しているという話をしましたが、どうしても技量の差がありますし、製造しているコネクタも何千種類とありますので、専任化せざるを得なかった部分があります。しかし今回、少ないサンプルを機械学習させるだけで安定したクオリティで検査工程が完了できるということで、とても期待しています。

——今後は山梨工場以外にも展開されていくというお考えはあるのでしょうか?

春日社長:もちろんあります。他の工場でも同じように検査工程を設けていますので、少なくとも5台程度は必要です。この先1年くらいで導入していきたいと思っています。設備搬入したら終わり、というメーカーさんもなかにはあるわけですが、axさんには搬入後も何度も現場に足を運んでいただいて、デバッグも張り付いてやっていただいたお陰で、非常にスピーディに進んでいるので有り難いですね。

——AI製品に限った話ではありませんが、導入が終わりではなく、スタート地点。稼働後のメンテナンス、サポートもきっちりしていないとAIが本稼働するというのは難しいのですね。今回の導入で得られた知見も、今後の製品展開に生きてきそうですね。

寺田:春日社長にはスムーズと仰っていただきましたが、実際にはいろいろなトラブルもありました。それでも迅速に導入できたのは、やはり両社が手を取り合って一緒に歩くことができたからです。今回の1台目の立ち上げができたことで、今後導入するのはもっとスムーズに進めることができると思います。

今回、AIの導入にあたって春日社長とはいろいろお話をさせていただきましたが、検査員の方を非効率な業務から解放してあげたい、ということを仰っていて、その意気込みがとても伝わってきました。AI導入=リストラみたいなイメージで捉えられることもありますが、そうではなく、大変な業務をされている従業員を楽にしてあげて、よりクリエイティブな仕事に向き合える環境を作っていく。これがAIとの正しい付き合い方ですよね。我々はAIを提供する側ですが、とてもいいお話だなという風に感じておりました。

もちろん、検査以外のところでもAIは活躍できますので、オフィスワークであるとか、そういったところでもぜひAIを活用していただいて、より効率的な会社運営のお手伝いができればなと考えております。

——春日社長にお聞きします。今後、ケル株式会社として、どのようにAIを活用していきたいですか?

春日社長:AIを導入するといってもなかなか想像がつかないところがありましたが、今回AI検査機を導入して、その存在が非常に身近になったという感覚があります。弊社としては今後も事業拡大を目標にしていますが、やはり問題は人員確保と効率化です。工場内にはまだまだAI化・自動化できる部分というのは残っていますし、開発・設計の段階でも、例えば社内のノウハウをAIに学習させて新しいアイデアを出力するといったことは十分可能な領域かなと考えています。ax株式会社さんのお力をお借りしながら、さまざまな可能性を模索していきたいと思っています。

寺田:我々としても、目下「ailia SDK」で扱えるAIをどんどん増やしていまして、現在でも約350種類。新しいAIも毎年どんどん登場しますから、それらを取り込んで、皆さんがもっと簡単にAIを使える環境を提案していきたいです。

——最後に、今後のビジネスの展望をそれぞれお聞かせください。

春日社長:コネクタメーカーとして、工業、車載、画像、医療、遊戯、通信、6つの事業領域を持っております。特に今後は、車載と通信関係、こちらが伸びると予想されますので、この2つの事業領域を拡大していきたいと考えています。中でも車載はですね、EVや自動運転が加速するとますます電子部品が増え、扱う情報量も増える。コネクタの製造でも検査数が増えるという形になりますから、AIを現場にも設計にも活用していきたいと思っています。

寺田:「ailia SDK」といったAIのフレームワークを充実させていくのはもちろん、オフィスワークで使えるアプリ「ailia DX Insight」も同様に、さまざまなAIソリューションを整えていくことで、より広い範囲で皆さんがAIを使える環境を整えていきたいと思っています。少子化の状況にある日本では、これからますます働く人が少なくなっていきます。AIを活用することで楽に世界と戦っていけるような会社に皆さんが出来るようにお手伝いしていきたいと考えています。

SHARE THIS ARTICLE