2025年11月19日から3日間、パシフィコ横浜にて行われた「EdgeTech+ 2025」。本イベントは、社会課題やインフラを支える「エッジコンピューティング」とそのソリューションを発信する総合展示会です。今回は、アイリアのパートナー企業5社のブースの様子をレポートします。
EdgeTech+ 2025とは?「静かな制御」から「戦略的価値」の創出へ
「EdgeTech+(エッジテックプラス)」は、一般社団法人組込みシステム技術協会が主催する、日本最大級の組込み・エッジテクノロジー総合展示会です。
「組込みシステム」とは、家電製品や自動車、産業機器などに内蔵され、特定の機能を制御するためのコンピュータシステムのこと。炊飯器でごはんが美味しく炊けるのも、自動車が安全に止まれるのも、すべてこの技術のおかげ。普段は目に見えない「縁の下の力持ち」として、私たちの快適な生活や社会インフラを支え続けています。

今年のEdgeTech+ 2025では、この組込み技術が大きな進化を遂げている様子が伺えました。かつては決められた動作を行う「制御」が主役でしたが、現在は、AI(生成AI/エッジAI)× IoT × セキュリテが融合し、自ら状況を判断して動く「知能」へと役割を変えつつあります。会場では、センサとAIが一体化した「フィジカルAI」など、組込みシステムを単なる制御装置から、ビジネスに新たな価値を生み出すエンジンへと変貌させる最先端のソリューションが数多く展示されていました。
株式会社アイ・エス・ビー
独立系SIerとして55年の歴史を持つ株式会社アイ・エス・ビーは、金融、官公庁、公共などのWEBシステム領域から車載、医療といった組込み領域まで、幅広い事業領域でソフトウェア開発を展開しています。自社プロダクトの開発やAIなどの先端技術にも積極的に取り組み、AIモデルの開発に加え、ハードウェアへの組込みからUIアプリケーションまでをワンストップで形にできる「総合力」を強みとしています。今回の展示では、こうした技術力を活かしたハードウェア連携ソリューションを中心に紹介していました。

ブースでは、マイコン向けリアルタイムOSを使用したQtのデモやスマートメーター向けのWi-SUNプロトコル、バーチャルグラス向けの映像ソリューションなど、多彩な技術が展示され、来場者の関心を集めていました。中でも特に注目されていたのが、組込み機器に生成AIを統合した監視ソリューションです。エッジデバイス上で生成AIを動作させ、リアルタイムな判断を可能にするこの技術は、人手不足の現場での活用や、生成AIを活用して教育コストの低減などの効果が期待されています。

「昨今、人間が介在せずに高度なタスクを自律的に実行できる『自律型AI』やセンサーやモーターと生成AIを組み合わせた『フィジカルAI』という新しい概念が登場しており、弊社も7月末に関連特許を取得し幅広い領域での実用化に向け、取り組みを進めています。今後はハードウェアに強みを持つアクセル社とも連携しながら、『オートメーション』をキーワードに、工場や農業、介護事業など、まだ生成AIが浸透していない現場へソリューションを展開していきたいと考えています」(第3組込みシステム部 技術主査 髙木康広氏)
日本システム開発株式会社
名古屋に本社を構える日本システム開発株式会社は、エンタープライズ系のDX支援と、車載やロボット(ROS)、産業機械などの組込み系開発の2軸で事業を展開する独立系ソフトウェア開発会社です。今回の展示では、近年注力している生成AI技術を活用し、開発現場の課題を解決するための画期的なツールを発表しました。

特に注目を集めたのが、「詳細設計書」と「ソースコード」のトレーサビリティ(一致性)を確保するツールです。これは島根大学および島根県産業技術センターとの三者共同研究により開発され、特許も取得済みです。これまで人手に頼っていたタグ付けや記録作業をAIで自動化することで、品質チェックにかかる時間を大幅に圧縮するソリューションとして、多くのエンジニアが足を止めていました。

「自社検証では品質チェック時間を80%削減することに成功しました。まずはベータ版として提供し、様々な企業のフォーマットで検証を進めていきます。我々のスタンスは『自分たちが作ってほしい、あったらいいなと思うものを作る』こと。作り手である我々が嬉しいツールは、業界全体の効率化にも貢献できると信じています。セキュリティや機密保持のハードルが残る組込み業界において、現場で『確実に使える』技術の実装を目指していきます」(システム営業部 高ノ山清氏)
CQ出版株式会社
1978年創刊の技術情報誌『Interface』などを発行するCQ出版株式会社。ブースでは、技術書の販売だけでなく、ユニークなEV学習キット、「CQ EVミニカート・キット」が展示され、異彩を放っていました。これは単なる教材ではなく、EVのコア技術を実践的に習得するための本格的な組み立てキットです。

展示されていたキットは、ArduinoやSTマイコンを使用し、ユーザーはモーターを手巻きするところから学習をスタートします。駆動回路の組み立てやプログラム作成を行い、速度を一定に保つ制御や、坂道での性能維持といった制御技術を、シミュレーションではなく「自分の手で」作りながら学ぶのです。年に1回、つくばで開催されるレース大会では、モーター・バッテリー・車体を共通仕様としつつ、制御部分や足回りは自由設計となっており、参加者のエンジニアリング能力が試される場になっています。

「『ものを動かしたい人のための雑誌』として必ず体験ページを設けるのが『Interface』のポリシー。レースをやりたかったわけではなく、キット作りを通じて『自分で手を動かして学ぶ』ことが本質です。最近はLoRaやエッジAIへの関心が一般ユーザー層でも高まっており、AIが身近になった今だからこそ、実際にハードウェアを制御し、物理的な挙動を理解する『リアルの体験』の重要性が増していると感じています」(野村英樹氏)
イノディスク・ジャパン株式会社
産業用フラッシュメモリの世界的リーダーであるイノディスクは、近年AI市場に向けたハードウェア展開を強化しており、今回の展示でもその戦略を鮮明に打ち出していました。ブースでは、エッジ環境でのAI導入を加速させるための堅牢かつ高性能なハードウェア・ソリューションが数多く紹介されました。

展示の目玉は、NVIDIAを中心としたAIアクセラレーターやGPUカードに加え、新たに発表されたQualcommチップ搭載のPC向けAI処理ソリューションです。2038年までの長期供給が可能という産業機器向けならではの安心感が特徴で、インターネットに常時接続できない工場内のライン検査や、監視カメラによるスクリーニングなど、「オンプレミス」をターゲットとしています。

「我々はハードウェアメーカーなので、ハード単体での提案には限界があります。やはり『動くソフト』があってこそハードが活きます。そのため、AIソフトウェアメーカーとのコラボレーションを重要視しています。今後はQualcommプラットフォームのサポート拡充なども視野に入れ、ソフトウェアパートナーとの連携を深めながら、国内のエッジAI市場をさらに開拓していきたいと考えています」(システムソリューション営業部 マネージャー 山崎豪氏)
岡谷エレクトロニクス株式会社
Intel社の正規販売代理店として知られる岡谷エレクトロニクスは、単なるCPU販売にとどまらず、AIソリューションを付加価値として提供する戦略を打ち出しています。今回のブースでは、ハードウェアとAI技術を組み合わせた、実践的な2つの主要ソリューションが展開されていました。

一つは、エクサステクノロジーズ社のサーバーを活用したプライベートAIプラットフォーム「AI Platform on PRIMERGY」で、データをクラウドに上げずローカル環境でセキュアにLLMを動作させることが可能です。もう一つは、LiDARセンサーとAIを組み合わせた人流解析ソリューション「ナガレミル」です。カメラを使わずに点群データから人と車を識別・追跡できるため、プライバシーへの配慮が必要な空港やスタジアムなどでの導入事例が紹介されました。

「一昨年あたりは『新しいね、面白いね』という反応が多かったですが、今年は具体的な検討や選定に入っているお客様が増えました。日本企業でもAI関連の予算が確保され始め、マーケットが受け入れフェーズに入ったことを実感しています。今後はアイリアのような体系的なフレームワークとも連携しながら、メーカーが製品にAI機能を実装する際のサポートを強化していきたいですね」(テクノロジー本部 プロダクト推進部 近藤知弥氏)
AIが「実験室」から「現場」へ、そして「興味」から「実装」へとフェーズを移した確かな変化を感じとることが出来た「EdgeTech+ 2025」。通信遅延やプライバシーの課題を解決するエッジコンピューティングは、生成AIの普及とともに、いよいよ社会インフラの中核として定着し始めています。
後編では、エッジAIの可能性と最新AI市場動向に関する、アクセルの会長・寺田健彦のプレゼンテーションの様子をお届けします。











