最先端のエッジテクノロジーが集結した、日本最大級の組込み・エッジテクノロジー総合展示会「EdgeTech+ 2025」。このイベントのセミナーでは、アイリア株式会社取締役会長・寺田健彦も登壇。昨今の生成AIブームの背景にある技術的進化から、クラウドAIとは異なる「エッジAI」ならではの課題と可能性、そして、アイリアが提供する解決策までを紹介しました。前編に引き続き、後編ではセミナーの内容をダイジェストでお届けします。
※本記事はアイリアの製品およびサービスを紹介するPR記事です。
「YOLO」から「生成AI」へ。AIが“実社会で使える技術”になるまでの10年
セッションの冒頭、寺田会長がまず言及したのは、現在のAIブームに至るまでの技術革新の系譜です。AIが研究室の中だけの存在から、私たちの実社会に溶け込む「使える技術」へと変貌を遂げたのはいつ頃だったのでしょうか。
大きな転換点となったのが、AIに『視覚』を与えた物体認識技術の進化です。寺田会長は、現在のAIブームの原点とも言える約10年前に登場した画期的な物体認識モデルについて、次のように語ります。

「AIが『研究室のもの』から『実社会で使えるもの』へと変わったきっかけは、約10年前に登場した『YOLO(You Only Look Once)』というモデルだと考えています。それまでの物体認識は、複数の処理を組み合わせる複雑なものでしたが、YOLOは画像を入力するだけで『場所』と『種類』を一発で特定するEnd-to-Endの処理を実現し、リアルタイムでの物体認識を可能にしました。これが『AIって使えるかも』と思わせた最初の衝撃でした」
物体認識技術の進化に続き、AIの世界に革命的な変化をもたらしたのが自然言語処理の分野です。特に、現代の生成AIブームを語る上で欠かせないのが、あるアーキテクチャの登場でした。この技術的転換点がなければ、今のAIの発展はあり得なかったと寺田会長は強調します。
「現代のAIにおける最も重要な技術的ブレイクスルーが『Transformerアーキテクチャ』です。アテンション機構により文章全体を並列処理することで、計算速度と精度が劇的に向上しました。現在皆さんが使っているChatGPTを含むほぼ全ての最新AIは、この技術がなければ存在しえなかったと言えるでしょう」
そして話題は、2020年以降に訪れた「生成AIの爆発的普及」へと移ります。GPTシリーズの進化や画像生成AIの登場など、私たちの生活を一変させた技術の進化。そのスピード感と衝撃について、以下のように振り返ります。

「2022年のChatGPT登場はまさに『生成AI元年』でした。わずか2ヶ月で1億人が利用するという社会現象は、みなさんの記憶にも新しいと思います。画像生成の分野でも、画像とテキストをつなぐ『CLIP』技術をベースに、ノイズから画像を復元する『拡散モデル(Diffusion Model)』が確立され、DALL-EやStable Diffusionによってクリエイティブの民主化が起きました。
そして直近では、Claude Codeのような自律型コーディングエージェントや、Sora2のような動画生成AIが進化し、エンジニアリングや映像制作の現場を一変させつつあります」
なぜ今、クラウドから「エッジ」なのか。SLMと軽量化技術が切り拓く可能性
AIモデルが巨大化・高性能化する一方で、技術トレンドには新たな変化が生まれています。それは、巨大な計算資源を持つクラウドではなく、手元のデバイス側で処理を行う「エッジAI」への回帰と期待です。クラウド全盛の時代にあえてエッジ処理を選択する理由とは何なのでしょうか。寺田会長は、実運用におけるクリティカルな課題を挙げながらその必然性を説きます。
「クラウド全盛の今、なぜエッジなのか。理由は明確です。まず社内データを外部に出さない『プライバシー保護』、従量課金となるクラウド利用料を抑える『コスト削減』、そして通信環境がない場所でも動作する『オフライン動作』です。特にロボットなど、物理世界で動作する『フィジカルAI』においては、通信断絶が事故に直結します。例えばEV車で通信障害が起きてドアが開かない、なんてことはあってはなりません。だからこそ、エッジでの処理が必須なのです」

しかし、本来であればスーパーコンピュータ並みの計算力が必要な最新AIを、小さなエッジデバイスで動かすには高い技術的なハードルが存在します。そこで鍵となるのが、AIモデル自体をコンパクトにする「SLM(小規模言語モデル)」と、計算を効率化する「軽量化技術」です。これらの技術進化が、エッジAIの実用化を後押ししています。
「GPT-4のような兆単位のパラメータを持つモデルに対し、SLMは数十億パラメータとコンパクトですが、巨大モデルの知識を継承させる『知識蒸留』によって実用的な性能を出せます。さらに重要なのが『量子化』技術です。通常32ビットで処理される計算を、4ビット、あるいはApple Intelligence Foundation Language Modelsのように2ビットまで情報を削ぎ落としても精度を維持する技術が登場しています。これに加えて、Teslaが次世代チップで2,500TOPSを目指すように、エッジ向けハードウェアも凄まじい勢いで進化しており、エッジAIの実用化を後押ししています」
クラウドとは別世界の厳しさ。エッジAI開発に不可欠な「職人芸」
期待が高まるエッジAIですが、いざ開発現場に目を向けると、そこには大きな「壁」が立ちはだかっています。クラウド上で開発されたAIモデルを、そのままエッジデバイスに持っていけば動くという単純な話ではありません。寺田会長は、クラウド開発とエッジ開発の間にある決定的な違いについて警鐘を鳴らします。
「クラウドの開発とエッジの開発は、全くの別物だと考えてください。クラウドならPythonと無限のリソースで開発できますが、エッジではメモリも電力も限られています。そのため、厳密なメモリ管理ができるC++での開発が主体となり、実機をUSBで繋いで泥臭くデバッグするような環境になります。単に動かすだけでなく『実用的な速度』で動かすための最適化も困難です。CPUやNPUのキャッシュメモリを意識したデータ配置など、ハードウェアレベルの深い知識が不可欠なのです」
では、これからのAI開発現場では、どのような人材が必要とされるのでしょうか。寺田会長は、ハードウェアとソフトウェアの両面を理解する「職人芸」の重要性を指摘します。

「つまり、クラウドAIエンジニアとエッジAIエンジニアでは、求められるスキルセットが大きく異なるのです。『AIの理論』だけでなく、『ハードウェアの制約』を深く理解し、メモリや帯域の限界の中で性能を絞り出す。そんな職人芸的な最適化技術を持つエンジニアが、これからのエッジAI開発には必要なのです」
スマホで100倍の高速化も。高速推論フレームワーク「ailia SDK」の実装事例
こうした「エッジAI実装の壁」を乗り越えるためにアイリア株式会社が独自に開発を続けるのが、推論フレームワーク「ailia SDK」です。これは、複雑なエッジ開発の課題を解決し、あらゆる環境でAIを高速に動作させるための強力なツールです。
「最大の特徴は、380種類以上のAIモデルに対応し、Windowsからスマホ、OSのない組み込み環境まで、あらゆる場所で高速に動作することにあります。汎用フレームワークとは違い、VULKANでGPUを叩いたり、ARMのFP16命令を使ったりと、各ハードウェアの性能を極限まで引き出すチューニングを行っています。また、PC上の推論結果と実機での結果が『完全に一致』するように作られているため、開発効率も劇的に向上します」

その技術力は、すでに多くの現場で実証されています。セッションでは、エンターテインメントから産業用途まで、多岐にわたる具体的な実装事例が紹介されました。特に、重い処理をスマホ上でサクサク動かすための最適化事例は、同社の技術力の高さを示す象徴的なエピソードです。
「例えば大阪・関西万博の落合陽一氏のパビリオンでは、音声対話システムをエッジで実装し、遅延のないリアルタイムな対話を実現しました。また、全世界4,500万ユーザーを持つ『CLIP STUDIO PAINT』にも採用され、多様なPC環境での安定動作を支えています。
ある事例では、重いVision Transformerモデルを独自のCNNアーキテクチャに置き換えて最適化することで、PCで2000ミリ秒(2秒)かかっていた処理をiPhone上で20ミリ秒まで短縮しました。実に100倍近い高速化です。このように、ailia SDKを使えば、重い最新モデルもエッジデバイスでサクサク動かすことが可能になるのです」
デジタルから「フィジカル」。AIが人間のパートナーとなる未来へ
セッションの締めくくりとして、寺田会長は今後の社会とAIの関係性について未来への展望を語りました。技術の進化は、AIと私たちの関係をどのように変えていくのでしょうか。そこには、デジタル空間を超えて物理世界へと進出する、AIの新たな姿がありました。

「これからの時代、AIは単なる便利なツールから、人間と共に働く『パートナー』へと変化していきます。特に、ロボット技術の実用化と法的な枠組みの整備が進むことで、AIがデジタル空間を飛び出し、物理世界(フィジカル世界)での活用が加速していくでしょう。私たちアイリアは、クラウドで生まれた最先端のAI技術を、誰もが手にするエッジデバイス上で『使える技術』として実装することで、AIと人間が協働する未来を支えていきたいと考えています」
アイリアでは、エッジAIの開発・実装はもとより、既存のAIソリューションを最適化し加速化する、AIコンピューティングにも対応しています。ビジネスシーンのAIに関するお困りごとがあれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
※本記事はアイリアの製品およびサービスを紹介するPR記事です。











