「LaKeel DX」がAIと目指す、新しいシステム開発のカタチ

#DX

新しい技術が次つぎに登場する昨今、ビジネスにおけるサービス開発や既存システムの改善には、より迅速かつ柔軟な対応が求められるようになっています。これまでのような大規模なシステムをいちから構築し、数年ごとに全面リプレイスするやり方では、変化のスピードに対応しきれません。

そこで注目されているのが「マイクロサービス」と呼ばれる開発手法。最小限の機能を持つソフトウェアを“部品”として捉え、それらを組み合わせてアプリケーションを構築するアプローチの方法です。日本初のデジタルビジネスプラットフォーム「LaKeel DX」は、この思想をベースに、さらにAIを活用した生産性向上、さらには開発の自動化を目指しています。

今回、開発に携わる株式会社ラキールの川上嘉章さん、李 斗豪さんに、AIによって目指す開発の未来について話を伺いました。

技術的負債を発生させない、マイクロサービスという仕組み

川上 嘉章氏(以下、川上氏):これまで主流だったシステム構造は「モノリシック(一枚岩)」と呼ばれ、すべての機能が統合されたひとつの塊として構築されていました。その名の通り全体が一体化しているため一元管理しやすい面もありますが、一度作ると変更が難しく、5年、10年ごとの技術革新が訪れるたびに全面的なリプレイスが必要になるという課題もありました。

対するマイクロサービスは、システムを小さな部品(サービス)に分割し、それらをAPI(アプリケーション同士をつなぐインターフェース)で連携させることで、システムを構成する仕組みです。陳腐化した機能だけを入れ替えることで、システムを作り変えることなく常に最新の状態を維持できます。そのためLaKeel DXでは、この仕組みを“サステナブルソフトウェア”と呼称しています。

――部品単位で機能を差し替えるので、システム全体を捨てなくていいんですね。

川上氏:おっしゃる通り、モノリシックなシステムではシステムの変更がトラブルを招くリスクや、保守・メンテナンスにコストが掛かるなどの問題を常に抱えていますが、マイクロサービスではそういった技術的な負債を発生させません。

インターネットとAPIでアプリケーション同士がつながるという基礎的な技術は、恐らくこの先もなくならないので、マイクロサービスをベースにしていけば、今後は新たに必要になる部品だけを作っていけばいいわけです。

例えば、ユーザーのログイン機能って裏側はどこの会社でも同じようなものだったりするように、個別に作る必要がない汎用的な機能は思っているより多いものです。簡単に言えば、そういった汎用的な部品を集めたプラットホームが「LaKeel DX」なんです。私たちが目指しているのは、クライアントが自ら欲しい部品を選び取ってシステムを作れるような世界です。

最適な部品の組み合わせを、AIが提案するマッチング機能を開発中

――LaKeel DXではAIを活用した部品を展開されていますが、どのようなものがありますか?

川上氏:基本的なChatGPT用のコンソール「LaKeel AI Dialogue」に加え、独自のRAG(Retrieval-Augmented Generation)を組み込むことで、回答の精度を高めた情報ポータル(データの取り出し口)「LaKeel AI Chatbot」というものがあります。導入によって、テキストデータやシステムデータと連携し、情報システム部門などを介さなくとも社内のあらゆるデータにアクセスすることができるようになります。

また、データをグラフなどで可視化して経営の意思決定を支援する「LaKeel BI Concierge」などは、生成AIを活用し、データ分析に不慣れな人でも、対話型で分析対象のデータから洞察・考察をスピーディーに把握することができます。

そして、ユーザーの指示により画面部品を作成する「LaKeel AI Navigator」などは、生成AIによって画面部品を瞬時に完成させることができます。ラベルの幅や色など細かいデザインの調整も可能で、ユーザーがイメージした通りの画面を生成します。

いずれも、AIの活用により業務プロセスの効率化と意思決定のスピード向上を目的としています。

――これらのソリューションに、AIを取り入れたきっかけはなんだったのでしょうか。

李 斗豪氏(以下、李氏):決定的だったのはChat GPT-4の登場です。設計内容を渡すだけでコードを生成できる推論レベルのAIが登場し、製品の生産性の向上に大きく役立つだろうと考えたことに起因します。AIの活用の道は大きくふたつあって、ひとつは先ほど川上がご紹介したようなLaKeel DX内のアプリケーションの機能強化です。

そしてもうひとつが、部品検索。マイクロサービスをより良いものにするために部品を作り続けていくと、どんどん蓄積されてしまい、いつか人の手に負えないような膨大な数になります。そこでAIの力を借りることで、最適な部品を検索し、システム構成を提案してくれるようなマッチング機能の開発を進めています。

川上氏:Axell社の客野さんからRAGを紹介されたときに、それは確信に変わりました。それまでの検索はキーワードの完全一致が必要でしたが、文脈を理解した知的な検索が可能になるならば、AIに大量の部品の設計書を読ませることで、より適切な情報を導き出せるようになります。そして今後、AIエージェントの時代がくるとすれば、生成AIと連携して業務プロセスの完全自動化も視野に入ってきます。その先駆けとして、生成AIは重要な役割を担っているんです。

――ailiaブランドとの協業について教えてください。

李氏:「ailia DX Chatbot」と連携し、RAG技術を活用した「LaKeel AI Chatbot」のSaaS展開を行っています。Axell社の独自技術によってRAGを強化することで、高い回答精度を実現することができています。また、開発中の部品検索やマッチング機能についても、LaKeel DXを基盤としたプラットホームにおいて、システム全体での部品の再利用や連携がスムーズに行えるような設計を進めてきました。

とはいうものの、私たちがAIを触りだしたのって、本当につい最近のこと。RAGに関しても何をどこから手をつけていいかわからない状態でしたので、さまざまな技術を教えてくれたAxell社および客野さんのサポートには感謝しています。チャットでタイムリーに会話しながら、リアルタイムに知見を深めることができました。いろいろなヒントをいただけて勉強にもなりましたし、それをLaKeel DXに落とし込んでいくなかでディスカッションがあり、Axell社とともに成長しながら作ってきたような感覚です。

AIの進化とともに価値を増す「データの活用」に注力

――LaKeel DXを通じて、日本のIT業界にどんなインパクトを与えたいと考えていますか。

川上氏:IT業界の仕事内容というのは、非常に“泥臭いもの”です。自分のIT人生を振り返ってみても、トラブル対応の連続でした(笑)。昨今メディアなどで人手不足が叫ばれていますが、私が新人の頃から人手不足は叫ばれているので、きっとこの先も人手不足は解消されないんだろうと思っています。となると、やり方を変えていくしかありませんよね。LaKeel DXを通じてマイクロサービス型のシステム構築を一般的なものにしていくことで、開発のあり方自体を変えていきたいと思っています。

さらに、その先にあるのはソフトウェア部品産業の創出です。従来、システム開発はコストと捉えられがちでしたが、LaKeel DXの仕組みを活用すれば自社で開発した部品を他社に提供し、新たなビジネスモデルを生み出すことも可能になります。これにより、長年問題視されてきた多重下請け構造に依存しない、新しいITビジネスの形を築きたいと考えています。

――Axell社対して、今後期待することはありますか?

川上氏:ailiaブランドの製品群は非常に多機能で、ChatGPTを核に、独自の文章検索、画像生成、音声認識など、多岐にわたる機能を提供されています。ailia DX Chatbotを実際に体験した際、その高い技術力を強く実感しました。AI技術は急速に進化しているため、ailiaには今後も最新のAI技術やトレンドを積極的に取り入れ、製品を継続的にアップデートしていくことを期待しています。

――最後に、今後の活動の展望と、AI活用の方向性について教えてください。

川上氏:GPT-4.0やClaude 3.5 Sonnetの登場によって、AIの業務利用が可能になったと感じてからわずか1年も経たないうちに、「推論トークン」という新しい仕組みを活用した技術が登場し、AIの活用がさらに加速しています。今後どこへ向かうのかと考えたとき、AIの精度が向上するにつれ、その活用領域はよりデータに重心が移っていくと私たちは予想しています。

システムを運用していく中で膨大に溜まったデータの活用方法は、恐らく皆さん悩まれていることだと思いますが、システムが飛んでもデータが残っていれば何とかなるように、本当に価値があるのはデータです。AI技術を用いて膨大なデータを収集・分析し、そこから得られる情報を企業活動に活用することが鍵になってきますので、AIを用いたデータ分析の機能をさらに進化させ、データ分析から洞察を得るためのソリューションを提供することに注力していきたいと思っています。データの専門知識がなくても、まるでAIデータサイエンティストがそばでサポートしているような体験を、利用者の皆さまに提供したいです。

株式会社ラキール

取締役 上席執行役員 開発統括本部長 DX推進室 川上 嘉章 氏(右)
2016年までSI(システムインテグレーション)に従事し、エンジニア、設計者、PMなどを経験。インターネット決済でのオーソリ(与信)の仕組みやアンケートシステムなど、システムの仕組みの開発に携わる。2017年より株式会社レジェンド・アプリケーションズ(現:株式会社ラキール)にてプロダクト開発を指揮。

執行役員 開発統括本部 基盤開発ユニット長 李斗豪 氏(左)
2002年からSI業界でキャリアを開始。Java、.NETなどを用い、多様な業界のプロジェクトに従事。2015年からは製品開発に転向し標準化とフレームワーク開発を推進。現在は基盤開発ユニット長として、LaKeel DXの先進的な開発基盤の構築に取り組んでいる。

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