「プロセッサ開発の技術を次世代へ」半導体メーカー・アクセルがRISC-Vで目指す、拡張性とエコシステムの両立

株式会社アクセルは、グラフィックスLSIを主力としながら、近年ではAIや暗号技術を主軸としたセキュリティなど、新規事業も積極的に展開しています。数あるビジネスのなかで昨今同社が注力しているのが、次世代のオープンスタンダードな命令セットアーキテクチャ「RISC-V(リスクファイブ)」を採用したプロセッサの研究開発です。
今回は、株式会社アクセルのソフトウェアチーム マネージャーである柴田泰晴と、LSIチーム シニアマネージャーの水頭一壽に、RISC-Vの概要や自社でプロセッサを開発する理由、そして産学連携を通じた今後の展望について話を伺いました。

水面下で進む実用化。次世代の命令セットアーキテクチャ「RISC-V」とは?

——はじめに、社内での業務内容について教えてください。

柴田泰晴(以下、柴田):「アクセル製RISC-Vを開発するプロジェクトのマネジメントや、全体の方針の取りまとめを行っています。もともとアクセルに入社したときは、Linuxのグラフィックスドライバーの開発やさまざまななプロセッサへのポーティングなどを主にやっていました。現在もソフトウェア側の担当として、OSやドライバーの開発を行っています。その流れで、今後アクセルで使うプロセッサの構成をどうしていくかという検討なども行っています」

水頭一壽(以下、水頭):「私はLSI(大規模集積回路)チームに所属しており、主な業務はLSIの論理設計です。回路がどのように動くかを考え、それを実現するための設計を行います。大学で研究員をしていた経験もあり、メインの製品開発に加え、産学官連携の窓口やプロジェクトのマネジメントなども担当しています。直近では2年ほど前まで、独自のプロセッサを開発するプロジェクトに携わっており、そこでの経験が現在のRISC-Vのプロジェクトに繋がっています」

——今回の主役である「RISC-V」について、あらためてどのような技術なのかを教えてください。

柴田:「RISC-Vとは、プロセッサを動かすための『命令セット』を定義したものです。プロセッサは『加算』や『乗算』、データの読み込み/書き込みといった『命令』を解釈して動きますが、その命令のルールを定めた枠組みがRISC-Vです。専門的に言うと、『命令セットアーキテクチャ(ISA)』の仕様を定義したものになります」

水頭:「分かりやすい例が、パソコンで使われるインテルやAMDのプロセッサだと思います。あれらは『x86』という命令セットアーキテクチャの仕様に則って作られた製品です。RISC-Vも同様に、RISC-Vという命令セットアーキテクチャの仕様があり、それに沿って各社が製品を出しているという形になります。つまり、プロセッサが理解する『言葉のルール』のようなものです」

——「RISC-V」はライセンスフリーであることが大きいと思いますが、実用面でのメリットはいかがですか?

柴田:「仰る通り、RISC-Vは命令セットの仕様だけが定められていて、その実装は各社が行っています。実装に対してロイヤリティがかからないというのが元々のメリットですね。また、よくネット上などで『オープンソース』と書かれていることがありますが、RISC-Vとしては『オープンスタンダード』という言い方をしています。公開されているのはあくまで仕様(スタンダード)の部分だけで、各社が開発した実装のソースコードをオープンにすべきというルールがあるわけではないからです」

——実際に世の中で使われている事例は増えてきているのでしょうか?

柴田:「最近ですと、Raspberry Piの『Pico 2』にRISC-Vが載っています。一般の人でも触れるようなところに出てきましたね。また、見えないところでは、数年前からWestern DigitalのSSDのコントローラーのなかで使われているという話もあります。見えない裏側ではちょこちょこと使われ始めている状況です」

発端は「技術者の好奇心」。RISC-Vでこそ活かされるアクセルの強み

——半導体メーカーであるアクセルが、RISC-Vの開発に注力している経緯や目的を教えてください。

柴田:「元々は社内でプロセッサを開発している技術者の、技術的な好奇心からスタートしています。以前は全然違う独自の命令セットでプロセッサを開発していたのですが、RISC-Vが出てきたときにそちらにも対応してみた、というのが発端です。そこから、産学官連携のプロジェクトで研究開発したLSIへの採用などで実績を積み、現在は社内外への提供を含めて検討を進めている状況です」

——独自のプロセッサをRISC-Vベースにするメリットは何だったのでしょうか?

柴田:「RISC-Vの仕様に従うことで、周りのコンパイラ(人間とPCの言葉の翻訳機)やデバッガ(バグを探す道具)といった開発環境がすでに世の中に用意されているんです。エコシステムが揃っているので、プロセッサのコアさえ用意してあげれば、あとは既存のものを流用して世に出しやすいという大きなメリットがあります」

——競合他社もいる中で、アクセルならではの強みはどういったところになりますか?

柴田:「RISC-Vのコアをそのまま出すだけであれば、すでに実績のある他社メーカーでいいとなってしまいます。アクセルの強みは、これまでLSIを開発してきたノウハウを活かして、お客様の要望に合わせて『カスタマイズ』して提供できることです。例えば、研究開発用途のほか、エッジAIとして自社システムに組み込み、性能を伸ばしたい、などといったお話も来ています」

——AI技術との組み合わせでは、どのような応用が考えられますか?

柴田:「AI向けにカスタマイズして性能を伸ばすというのは、アクセルが得意とする部分であり、今後大いにあり得ると思っています。過去に水頭が携わっていた完全自動運転に向けたシステムオンチップの研究開発プロジェクト(東京大学、京都大学、名古屋大学、埼玉大学との共同提案)などでも、エッジAIとしての使われ方を想定してコアを作っていました」

水頭:「AIを処理する専用のアクセラレータやDSPなどを用意し、それを制御するプロセッサと組み合わせて一つのシステムを作ることがあります。そのシステムを作る上で、中核となる『プロセッサ』を自分たちで内製できる技術があるというのは、企業としての強みになってくるかなと思います」

——車のレースでいう自動車メーカーのカスタム部門みたいな感じでしょうか。エンジン(プロセッサ)も自社で開発し、さらにカスタマイズやチューニングを施してレースに出すような。

水頭:「まさにその通りです。カスタマイズしてオリジナルのパーツも作って、何かトラブルがあっても対応できるエンジニアがいる。そういう意味でも、やはり社内にプロセッサを研究開発できる技術者がいるというのは大きいですね」

「自社のプロセッサが載った製品を出したい」。独自性と標準化のジレンマを越えて次世代へ

——RISC-Vにはまだまだ可能性を感じていらっしゃいますか?

柴田:「そうですね。やはり、ベンダーごとに拡張できる余地が残されているのが大きいです。これまでのインテルやArmでは命令自体を変えることはできませんでしたが、RISC-Vなら根本の命令からカスタマイズが可能です。プロセッサの性能を上げていく上で、そういった方針が取れるのは大きなメリットです」

水頭:「拡張性があるということは、裏を返せば『独自性』になります。実は、プロセッサの選択というのはエコシステムの選択に等しく、独自性を出すことと標準のエコシステムを利用することは相反する部分があり、事業としては難しい判断を迫られるというジレンマもあります。ゼロから独自にプロセッサを作ってしまうとエコシステムがついてきませんが、RISC-Vならオープンスタンダードの部分として用意されたエコシステムを活用しつつ、拡張の部分でプラスアルファの独自性を出していける。そこが非常に将来性のあるところだと思っています」

——最後に、今後の展望と、一緒に働きたい人材像について教えてください。

水頭:「私としては、やはり『自社のプロセッサが載った製品を出したい』という夢があります。具体的には、現在研究開発中の次世代の自社製品(組み込み機器向けのLSI製品など)への搭載をひとつの大きなゴールとしています。その実現に向けて、現在慶應義塾大学の山﨑研究室と共同研究を進めており、OSのコンテキストスイッチ(処理の切り替え)をハードウェアで支援・高速化する技術などの研究開発を通じて、社内のプロセッサ研究開発体制の維持・強化を図っています」

柴田:「お客様の要望を聞きながらプロセッサの構成をカスタマイズして、世の中に出していけるものを作りたいです。人材という面では、コンパイラやデバッガ周り、Linuxなどを扱えるソフトウェア開発者は世の中的にも需要に対して人が少ない分野です。新しいアーキテクチャに挑戦していく面白さがあるので、そういったことに興味がある方にはアクセルはとても良い環境だと思います。

RISC-Vの取り組み自体もそうであったように、『こうやったらもっと良くなる』というエンジニアの好奇心や研究開発を、割と自由にやらせてくれる寛容な環境がアクセルにはあります。新しい技術に挑戦することにやりがいや面白さを感じられる方とぜひ一緒に働きたいですね」

水頭:「現在、国内においてプロセッサを自社開発する企業は少なくなってきています。その中で、イチから自分たちで作って市場に出していくことができるのは技術者として大きな醍醐味なのですが、どうしても大手の影に隠れて、私たちの存在が知られていない現状があります。社内では10年後には今の主要メンバーが引退してしまうという高齢化への強い危機感も抱いています。

だからこそ、アクセルが持つ技術を次世代へ継承し、さらに発展させていける人は、弊社にとっても、業界にとっても必要な存在です。トップダウンの業務命令だけでなく、エンジニア個人の技術的な好奇心から研究開発に挑戦できる自由な社風がアクセルの強みですので、この恵まれた環境で、ハードウェアから作っていく技術を面白いと思ってくれる方にぜひ来ていただきたいと思っています」

※記事に掲載している会社名、各製品名は、一般に各社の商標または登録商標です。

(写真右)
株式会社アクセル
技術グループ ソフトウェアチーム マネージャー
柴田泰晴
2012年に株式会社アクセルに入社。Linuxドライバの開発に携わった後、自社LSI向けLinuxディストリビューションであるAxell Linuxの開発を担当。現在はアクセル製RISC-VであるAXRVのプロジェクト管理を担当。

(写真左)
株式会社アクセル
技術グループ LSIチーム シニアマネージャー、博士(工学)
水頭一壽
慶應義塾大学 理工学研究科 後期博士課程修了。2014年に株式会社アクセルに入社後、アミューズメント機器向けのグラフィックスプロセッサや、プロセッサアーキテクチャの研究開発に従事し、現在に至る。2019年度から2022年度にかけて、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の委託事業で、完全自動運転に向けたシステムオンチップとソフトウェアプラットフォームの研究開発に従事。

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